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放置されたコメは化けて出る(前編)

 ある日私が迎賓館に入ると、副官がなにやら熱心に調べていた。


「おや、魔王様。反乱分子の制圧、お疲れ様でございます」

「少し荒れてはいたが、大したことはなかった。そっちはなんの仕事だ?」


 問うと、副官はしばし物思いに沈んだ後に答えた。


「本国の方から、米とカレーをよこせとせっつかれましてねえ。驚いたことに、一時のブームに終わらず定番化しそうなんですよ」

「うらやましくなんて……ないッ」

「明らかに顔がうらやましそうです、魔王様」


 副官はため息をついてから、パソコンに向き直った。


「そうなると、こちらが保有している米の保存にも気を配らねばなりません。なにせ、食べたいとおっしゃっているのは舌の肥えた貴族ばかりですから」

「厄介なことになったな……」


 私はため息をつきながら、副官に向き直る。どうやら、自嘲している暇はないらしい。


 現在、この国から巻き上げた「米」は、全て副官が作り出した隔離空間に保管されている。極端に暑かったり寒かったり、ということはないはずだが、米の最適気温でない可能性は十分あり得る。


「現在、腐敗が進行している分はあるか?」

「乾燥しているから、そこまであからさまなものはありません。ただ、調べると……単なる保存食品と同格に扱うわけにはいかなそうなんですよ」


 サイトいわく、米は普通の野菜と考えた方がよいとのこと。常温におくと徐々に品質が低下するため、蓋付きのビニール袋など密閉できる入れ物に入れ、空気を抜いた状態で冷暗所に置くのがベストだそうだ。手間のかかることを。


「脆い食べ物だな。バフムはひと月放置したところで、びくともしないぞ」

「私もバフムを想像していたので、回避策まで考えていなくて。もともと隔離空間は暗いので暗所という条件は満たしていますが、一定の低い気温に保つというのがなかなか難儀で……」


 私は過去と地上の事例に思いを馳せ、ある方法を思いついた。うん、本当に私って部下思い。


「それならいっそ、冷凍しておくっていうのはどうだ? 地上にはそういう技術があるんだろう。氷魔法で代用できると思うが」


 副官は息を吐いた。


「それもダメなんです。米の中に含まれている水分は凍ると膨張し、米粒そのものを割ってしまいます」

「自爆技みたいな感じだな……」


 とにかく、米はこちらの努力を嘲笑うような食べ物だとよくわかった。私の優しさを無下にした米を許さない。


「保管場所を潰さないようにしようと思うと、私の魔力がだいぶ食われますねえ。いい使い魔が見つかるといいんですが……」


 使い魔は自らの魔力を主のために捧げる、特殊な動物だ。ただし、十分な魔力を持った上で、主人に忠誠を尽くす個体となると、極端に数が少ない。仕えたいと思わせるだけの器量がその者にあったとしても、巡り合わせが悪ければ一生会わないこともある。


 それを分かっている副官は、少し気落ちしている様子だった。


「……まあ、先のことは分からんもんさ。バッタリ会うかもしれんし、あまり気にするなよ?」


 私はそう慰めることしかできなかった。


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