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茶漬けとギャルと私(後編)

「では、定番の三種で試してみましょうか」


 副官が手をうつと、炊きたてのご飯と具材が出てきた。孫が保ってきた塩鮭は、副官自らほぐして皿にのせる。


「お茶は緑茶でよろしいので?」

「ああ。熱いやつで頼む」


 副官がその通りにする。茶碗と箸を横に添えると、これで準備が整ったと孫が言い放った。


「後は勝手に乗せて勝手に食べな。鮭代返せとか、ケチなことは言わないから」

「材料費を言うのなら、うちが出している方が遥かに多いんだけどな」


 私が言っても、孫は口笛を吹くばかりだった。


「なんだか貧相で冴えないな。おにぎりの時にも見たし、新鮮みがない」

「では少し工夫してみましょう」


 副官が取りだしたのは、黒い海苔と欠けたあられ。寿司と和菓子を調べたときに載っていたので、存在は知っていた。それを具材の上に、ぱらぱらとふりかけた。海苔の黒とあられの薄茶で、茶碗の中に彩りが増える。


「上手くいきました。ちょっと華やかになるでしょう?」

「それでもなんだか、ぱっとしないな」


 私が唸っていると、傍らの孫がせせら笑った。


「文句言うなら食べるなよ」


 孫はそう言うがはやいか、茶碗に口をつけてすすり始めた。下品な、と咎めても聞いてやしない。茶漬けはこうやって食べるものだ、というのが彼女の持論だった。


「私は梅にしますが、魔王様はなんにしますか?」

「……じゃあ、鮭で」


 迷った結果、孫が食べているものと同じのを選んだ。向こうが食べているものなら、極端に外れということはないだろう。


「む」


 一口食べてみた。カレーと違って、破格に美味いとか衝撃とかいう感じはない。素材の味は割とそのままだ。しかしお茶で鮭の濃い塩味が中和されて、ちょうどよくなっている。


 流れるように食べられるため、喉の負担がほとんどない。かきこんだため、食べ終えたあとで腹が膨れてきた。汁物で腹が膨れると、ただ食べた時とは違って不思議な安心感があるのはなぜだろう。


「文句言ってたくせに、一気に食べたじゃん」


 私の様子を目にした孫が、薄笑いを浮かべている。癪だったが、美味い物は美味いのでうなずいておいた。


「お、素直でよろしい」


 孫は律儀に、米の最後の一粒まですすって食べていた。その後、今度は具材を明太子に変えてもう一杯平らげる。


「おかわりいらない?」

「いらん」

「お茶で結構、腹が膨れますからねえ。二杯はちょっと」


 私たちが断ると、孫は露骨に嫌そうな顔をした。


「やっぱり、ばあちゃんみたいには上手くできないな……」

「ん? 何か言ったか」

「な、なんでもないよっ!!」


 孫はなぜか極端に慌てた。そして「危ない」と小さくささやく声が聞こえてくる。もしかしてこいつ、生意気にも我々に毒とか盛る気だったのか。たかが学生がそういうものを手に入れられる教育って、どうかしてるんじゃないの。将来が恐ろしいわ。


「まあ、あのタガの外れた総理の孫だしな……だが、私は地上の毒くらいでは死なんぞ。お前らとは、体の構造そのものが違うのだハハハ」

「あ、そう。そういうことにしといて。魔王ってやっぱ、丈夫なんだな」


 どこか齟齬のある物言いだったが、孫はそれ以上何も言おうとしなかった。

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