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茶漬けとギャルと私(前編)

「魔王様、カレールーをもっといただきたいのですが。バフムにかけても美味しいと、わたくしの周りで流行しておりまして」


 婚約者は地下へ戻ったのだが、地上での経験をやや劇的に語りすぎているようだ。今やカレーは無上の味わいということになっており、名家の子女たちが列をなして晩餐会に招かれるのを待っているという。


 この分では、中央の貴族連中に名が通った料理になるのも、そう遠いことではない。姫連中は、流行の発信地として名高いのだ。


 良くない。この状況は非常に良くないぞ。こちらがバフムの普及に手間取っているうちに、あっちに逆転されてしまう。


「……なにひとりでブツブツ喋ってんだよ」


 声に気付いて顔をあげると、風来坊が戸口に手をかけて長い爪を見せびらかしているのが見えた。本当に、悪いことというのは束になってかかってくるものだ。


「なんだ。孫か」

「久しぶりに会った女子高生にそういうこと言う?」

「だいぶ最近に会った気がするが」


 私はそっけなく背を向けた。二度と会いたくない奴に返事をしているだけでも、私は大人でとんでもなく偉いと思う。


「なに。無視して感じ悪いなあ」

「……今日はどうされましたか?」


 そこで副官が割って入ってくれたので、魔術大爆発はかろうじて避けられた。


「ジジイなら他の仕事。あたしはここに、ご飯食べに来ただけ」

「定食屋のノリで利用するなっ!!」


 ええい、どこぞをほっつき歩いている不良学生が。保護者はどこへ行った、保護者は。


「お前、両親は!?」

「いないよ」


 ……な、なんだか悪いことを聞いてしまった。意外にかわいそうな奴だったんだな、孫。どうしてそんなことになったのか知りたいが、正面きって問いただす話題でもないし。どうしよう。


「今、日本にはいない。外国で会社やってるから、帰ってくるのはいつのことかな」

「騙したな小娘──ッ!!」


 ひどい。純粋な私を弄んだな。この悪女が。


「そっちが勝手に誤解しただけだろ」


 いけしゃあしゃあと言いやがるし。本当に、邪悪な地上人など滅んでしまえ。


「おや、何かお持ちですね。またおにぎりの材料ですか?」

「今日は軽く、お茶漬けの気分。塩鮭は買ってきてあげたから、ご飯だけよこせ」

「恐喝をするな、恐喝を」


 私が怒りを限界までこらえてつっこもうとも、孫は帰る気配がない。一回魔法を食らわしたのにこの図太さは、さすがに恐れ入る。


「喧嘩しても虚しいだけですよ、魔王様」


 消極的に対応する副官の方が、正しいのかもしれない。私は思考を切り替えて、副官に問うた。


「お茶漬けとはなんだ?」

「お茶漬けというのは、日本の軽食ですね。ご飯に塩気のある具材をのせ、お茶をかけて食べます。出汁をかける変形もあり、そちらは出汁茶漬けと呼ばれているようで」


 茶がかかってないのに茶漬けというのか。下等種族の言語センスは、未だに不思議でよくわからない。


「しかしとにかくその味、確かめてやろうではないか」

「具材としては鮭、明太子、梅干しなどが定番のようですね。もっと高級なのになると、鯛の刺身なんかも出てきますが」

「鯛はいらん」


 若い者に贅沢を覚えさせるのは良くない。最低限の料理で十分だ。


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