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半殺しか皆殺し(後編)

 総理と孫に背中を押され、私は握り締めていた箸をおずおずと動かした。


「ん?」


 思ったより、あんこと米が結びついた感じは悪くない。外のあんこが滑らかでさっぱりしていて、しつこくない感じなのがいいのだろうか。餅ほど滑らかではないが、口の中を刺激する粒の食感もまた楽しかった。


「思っていたよりはマシだな」


 私が二つ三つ手を伸ばすと、総理が微笑んだ。


「若い人にも人気だったんですよ。脂肪分がなく、ヘルシーなおやつですから食べても罪悪感が少ないと。そちらのお国の女性にもいかがです?」

「はん。こんな泥臭い菓子、誇り高き我が国の妻たちが喜ぶものか」


 私はそう言って目をそらした。そんなはずはない、と言い切れないのが女の恐ろしいところなのだが。


 副官は私の横で同じように手を動かしていたが、はたと口を開いた。


「そういえば、おはぎと似たようなもので、『ぼたもち』というのが出てきましたね。餅米を使ったり、そうでなかったりするようですが……その違いですか?」


 総理はうなずく。


「ええ。もち米を使えば『ぼたもち』、うるち米なら『おはぎ』。そういう分け方をする地域もあるんですが、本当に呼び方は地方によってバラバラでして」


 春のお彼岸(春分の日を中心とした前後三日間)の頃に食べられるものをぼたもちといい、秋のお彼岸(秋分の日を中心とした前後三日間)に食べられるものをおはぎという地域。


 外があんこで覆われているものはぼたもち、きな粉で覆われたものはおはぎという地域……と、総理は色々な分け方について語った。


「へえ。いろんな説が確認されているんですね。知らないものもいくつかありました」


 副官が感心しながらおはぎを頬張る。


「ところで、用意したおはぎの味はいかがで? 奥様のものに似ていましたか」

「ええ、だいぶ。私にはやはり妻のものが一番ですが、十分美味しかったですよ」


 しれっとした顔で総理がのろける。


「いつか皆さんに、妻の料理を振る舞う機会があれば良いのですが。大がかりな会でなくても構いませんので」

「へえ。刺客ばかり用意していた男が、ずいぶん丸くなったな」

「……ヘタに送り込んでも、撃退されてきましたからねえ。面倒な方です」


 総理は笑っていたが、あの顔は絶対諦めていない顔だ。


 二人が帰ってから、私は副官と顔をつきあわせて考えた。


「どうします? 向こうの話を呑みますか? 戦いますか?」

「戦っても、あいつら諦めないだろうなあ。それに婚約者にも、長いこと会っていないな……」


 あちらが妻を連れてくるというのなら、こちらも婚約者同伴の方がいいかもしれない。女性の心はよく分からんから、婚約者が総理の妻を丸めこんでくれればこちらも助かる。私の伴侶になろうというのだから、それくらいは出来るだろう。


「もし出来るようなら、来るように言ってみるか。……未来の、我が妻に」


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