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丼・丼・ドン(後編)

「グルメというのは間違っていないな。実際、美味かった」

「良い副官をお持ちで、実にうらやましい限りです」


 総理たちに褒められて、副官はますます気をよくしていた。


「正直、牛丼や親子丼といった有名どころを外したのは残念ですが、醤油味がかぶったり卵がかぶったりしましたので。また後日、いらしてください」

「ええ、勿論です」

「……お前ら、過剰に仲良くなるなよー」


 何かうさんくさいものを感じて、私は釘を刺した。



 ★★★



 迎賓館を辞してから、総理と大臣はそろって携帯していたスマホを取りだした。そのままチャットアプリを立ち上げ、無言で会話を始める。勿論、画面が見えにくいように手で覆いながら。


『首尾はどうでしたか』


 総理の問いに、大臣がうなずく。


『報告が入ってた。近隣の飲食店から、刺身や豚肉、卵、豆腐が確かに消えていると。最初はあり得ないと思っていたが……お前の予測が当たったな』

『やっぱり、彼らが魔法を使って動かしていましたか』


 総理はそれを聞いて低く笑った。


『どうにも気になっていたんですよ。ちょっとした攻撃をするならともかく、国中の米を消してしまうようなエネルギーを、いったいどこから生み出したのかと。そしてそこまでして消したものを、また簡単に出すのはなぜかと』

『何故かはようやく分かったな』

『奴らは完全に消したわけではなく、持ち去った米をどこかにしまっているだけ。これならば、私たち相手にホイホイ出してくる理由も分かります』


 総理は満足そうにしていたが、大臣は嘆息する。


『だがなあ。それが分かったところで、なんになる? 結局、米が食べられない、米農家の仕事も戻らないことに、代わりはないじゃないか』

『大違いですよ。この世から完全に消えてしまったのなら諦めるしかありませんが、まだあるとなれば戦いようはあります』


 総理の顔に、強がりの色はなかった。


『私は彼らになんだかんだ要求を突きつけ、米を食べさせることに成功した。魔王も副官も、思ったより米が美味いと驚いていましたよ』


 そして彼らは、勧められるままに色々な料理を食べていった。


『米の味に馴染み、食べ続けていけば、いずれは消し去った分がなくなる。そうなった時、彼らは本当に食べないままでいられるでしょうか?』


 彼らに稲作の技術はない。そうなったら、こちらに栽培させなければ作り出すことはできないはずだ。


『次善の策だな』

『……ええ。本当は戦うか王を暗殺して、すぐに元に戻させるのが一番いい。ですが彼らとの実力差はまだ歴然、当面は軍同士は衝突しない方が安全です』


 だから総理は、皆から離れてひとりここに来ていたのだ。終わりの見えない、周囲には遊んでいるようにしか見えないものであっても、彼の心には目的があった。


『この戦いは、いかに向こうに愛好家を増やせるかにかかっています』

『まずは消された米を消費し尽くさないと交渉に入れないからな。グズグズしていると、稲作の技術を持つ人間が死に絶えてしまう』

『それもありますし、米が食べられなくなる時に迷う頭数は多ければ多いほどいい。すでにあの副官は気に入っているようですが、もっと広げなければなりません』


 総理は確信的に言った。


『ここは戦場と言ったでしょう。これは互いのプライドを賭けた、根比べの戦いなんですよ』

『……いかにもお前らしいな。だが、無理はするなよ』


 大臣はその言葉で、アプリの会話を締めくくった。

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