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丼・丼・ドン(中編)

「今度は天丼です。ご飯の上に様々な食材の天ぷらを載せて、タレをかけたもの。一般的に、カツ丼より高めの値段になっていますね」


 副官が繰り出してきた丼の上には、高く尾を上げた海老とかいう海産物の天ぷらが二本そびえていた。脇を固めるのは、色とりどりの野菜の天ぷら。なるほど、色々な食材を使っているからちょっと高いのか。


「うん、醤油がきいてるな」


 塩味の濃い醤油風味のダレが、サクサクした天ぷらの衣と白飯に絶妙に合う。中の具材はどれもほどよく火が入って甘味が増しており、甘味が終わるとまたタレと白飯ができるだけ欲しくなる。ああ、無間地獄。


「でも幸せ……」


 私がつぶやくと、横でジジイたちも同じような顔をしていた。よく見ると酒が入っているようで、頬がわずかに紅潮している。


 ……しかしいかに幸せとはいえ、さすがに休憩したいのは事実だった。わずか二杯とはいえ、揚げ物が連続すると口が飽きてくる。


「揚げ物じゃない丼っていうのはないのか?」


 私が聞くと、副官はにやっと笑った。


「仕方ありませんねえ。そろそろそうおっしゃると思って、用意してありますよ。揚げ物でも肉でもない、素敵な丼が」


 そう言って副官が手を叩くと、新たな料理が卓に運ばれてきた。


「こちらは海鮮丼。そしてこちらがとうめしになります」


 見た目は対照的ともいっていい二品だった。片方の海鮮丼は、赤、白、橙の魚の切り身に紫蘇の緑が実に鮮やか、祝いの品といっても十分に通る。


 かたや謎の「とうめし」は、白飯の上に茶色い土の塊のようなものがどかっと載っていて、本当に食い物かも疑わしい。少し丼を動かすとふるふると塊が震えるのが不思議で、気味が悪い。


「どちらから召し上がります?」

「……じゃあ、こっちで」


 私はまず、確実に美味そうな方を手に取った。……いや、謎のブロックが怖くて避けたとか、そんなんじゃないぞ。


「うん。寿司とはちょっと飯の味が違うが、これはこれで美味いな」

「寿司は酢飯で、白米に混ぜ物がしてありますからね。これは純粋に海鮮が白飯を引き立てて、食べ終わったらおかわりがしたくなります」


 また新たな楽しみ方を知れたことは良かった。ああ、丼編、これにて完。


 ──とはならないのであった。


「……残ったのはこの謎な個体か……」


 こんなものを好む奴がどこにいるというのだろう。全身が棘だらけの謎の生物とかの主食じゃないのか。


「おや、懐かしいとうめしじゃありませんか。いただきます」


 いた。総理。まあ、前から普通の人間じゃないとは思ってたよ。


「うん、醤油と出汁が絡み合って実に美味しい。少し動物的な味がするから、海鮮系の何かが入っているのかな」


 総理は、箸で簡単に四角い謎個体を切っていく。想像より柔らかいようだ。中まで茶色なのが、私の位置からも見えた。


「おや、召し上がらないので?」

「た、食べるぞ」


 私は決してこれを受け入れたわけじゃない。むしろ疑ってすらいる。しかし、こいつの目の前で敵前逃亡だけはやってたまるか。


 私は覚悟を決めて、謎の固体と米を一緒に口に放り込んだ。


「……あれ?」


 思ったより変な味ではない……というか、確かに美味い。色々な食材の旨みが全てふわふわの謎の固体に吸い込まれていて、白い飯と絶妙に合う。なんだ。なんなんだ、この固体は。


「おや、ご存じありませんでしたか。豆腐というのは、大豆という豆を潰して、それを漉して固めたものです。あっさりした味わいで和食によく合い、昔から日本ではよく食べられてきたのですよ」

「味噌汁の具にもよく入っている」


 私の疑問に答えるように、人間たちが言った。恐ろしい連中だな、魔法もないのに頭の中を読むとは。


「魔王様、完食されましたねえ」

「思ったより腹に優しくて良かった」


 私が素直に言うと、副官が笑った。


「そうでしょう、そうでしょう。私はグルメとして、徐々に高みに登りつつあるのですよ」


 なんか部下が当初の目的を忘れている気がしたが、非常に得意そうなのでそのままにしておいてやった。



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