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神話の神が覚えられない

 アマなんちゃらにニニなんちゃら。こっちの世界の神の名前だろうが、ややこしすぎて全然頭に入ってこない。聞き流すに越したことはないな。


瓊瓊杵尊ににぎのみこと猿田彦神さるたひこのかみに先導され、この地を治めることとなった……おいそこ、耳を塞いで適当にやり過ごそうとするなよ」


 なんでバレたんだ。


「神の名前は正直ややこしすぎだが……そうやって国の基礎ができたと」


 まあ、おとぎ話だが──うちの国の建国神話も似たようなものだしな。あんまりバカにしてやるのもかわいそうか。


「ちなみに瓊瓊杵尊は、木花開耶姫このはなさくやひめという大変美しい奥様をもらわれたそうですね」


 副官、ネットでいらんことを検索するな。目の前の男が私にどんな仕打ちをしたか、もう忘れたのか。


「うぐっ」

「へー、しかもその奥様が一夜でご懐妊と」


 農林水産大臣はついに頭を抱え始めた。どれだけ女性がトラウマなんだ、この男。でも、弱っているならグッジョブだぞ副官。


「それにしても、神話とはいえご都合主義だなー」


 私が副官に話しかけると、奴はにやっと笑った。


「瓊瓊杵尊もそう思ったようですよ? 『本当に俺の子なのか』とね」

「嫌なとこリアルだな、その神話」

「しかし彼に待ち受けていたのは、過酷な結果でした。疑われた木花開耶姫は、身の潔白を示すと言って、出産場所である小屋に火を放ったのです」

「……死なない、それ?」


 怖い。なにそれマジ怖い。


「死にませんよ。木花開耶姫は無事に三人の子供を出産し、無実を証明してみせたとか。ま、これで瓊瓊杵尊もようやく落ち着き、国を豊かにしていったということです」

「なーんだ」


 私は結末を聞いてほっとしたが、農林水産大臣はまだ震えていた。


「恐ろしい……美しい女性と会い、子までもうけながらそれを疑うリア充の心が」

「そっち?」


 私はどっちかというと、「じゃあ火の中にこもるわ」メンタルの女神のほうが怖いと思うんだけど。


「まあそんな感じで、米は神から賜ったもの、ということになっているので……毎年採れた米を神に捧げる祭というのは、この国では結構ランクの高いものなんですよ。今年はどうなるか知りませんけど」

「もちろん困っておりますよお。ある庁の幹部など、さっそく貴方がたに呪いをかけ始めております。そろそろおやめになった方が、身のためかと存じますが」

「嫌だね」


 にやつく総理に、心の底から私は言った。バフムの意趣返しはまだ済んでいないのだ。


「まだゴネるか。やはり貴様は滅ぼさねば……」


 あ、まずい。放置してたら、大臣が元気になってきた。


「やかましい。今度はこっちの番だ!」


 私は用意してあった、使い魔の一体を呼び出す。巨大な生物で、地上でいう蜘蛛の形をしているのだが──頭だけは、女の顔に変えておいた。


「お、女……? 蜘蛛……?」


 蜘蛛は糸を吐いて大臣をぐるぐる巻きにすると、外へ持ち去った。総理があわててそれを追いかけ、室内には私と副官だけが残される。


「あー、また。余裕がなくなると手加減できなくなるの、悪い癖ですよお」

「すまん,、私の落ち度だ……」


 心配どおり、農林水産大臣の負傷はニュースで大々的に報道された。軽症だったものの大臣はテレビでこちらの悪態をつきまくり、内閣の支持率をちょっとだけ回復させやがった。これでやりにくくなるではないか。


 ……全くもって、不遜な人間共め。

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