代用米のお味はいかが
「おや、少し模様替えされましたか?」
ようやく外国から帰ってきた総理は、後ろに屈強な男を連れていた。見上げるばかりの大男だが、我々にとっては脅威でもなんでもない。
「お前たちが海外で楽しく密談してる間にな」
だからこうやって嫌味も言えるのだ。ふん。
「それに、今日は新しい客人がいらっしゃると伺いましたので。そちらの方ですね?」
「ええ、私の友人です」
副官の問いに、総理と連れがうなずいた。のんきに着席した二人を見て、私は舌打ちをする。
「お前ら、しばらく長期出国すんなよ。うちが対策を考えるまでな」
「ははは、そういうことなら……国内で安心して、これの改良に関する法を整えることができますねえ」
そう言って総理が鞄から出したのは、まごうことなき米粒だった。
「は?」
「え?」
あまりの展開に、私と副官は一瞬あっけにとられる。総理はそれを見て、とても楽しそうに笑った。
「ああ、驚かせてしまいましたか? これは私たちがデンプンから作った代用米です。米と同じ……とはいきませんが、味を見ていただこうかと思いまして」
代用米は、普通に炊飯器(私が出した)で炊くことができた。茶碗に盛られると、もう白米がそこにあるようにしか見えない。
「ううむ……」
食べた瞬間、私は唸った。粘りは全く足りないし、甘味も本物に比べて物足りないが……悪くないのだ。味の濃いおかずと合わせれば、ほとんど分からないに違いない。
「これは素晴らしい。どうやってお作りに?」
副官も感心しながら問う。
「実は、色々な植物で試したのですが。一番良かったのは、バフムからとったデンプンだったのですよ」
総理から正解を聞かされた瞬間、手が震えてきた。
「せっかくいただいた大量のバフムを米にしてしまうのは……こちらとしても、苦渋の決断でございましたよ」
「そんなさっぱりした顔でなされた苦渋の決断は初めて見るなあ、おい」
私がつっこんでも、総理は涼しい顔をしていた。
「魔王様、おつらいでしょうが気を確かに」
副官がこちらを覗きながら言う。
「奴らは変態民族です。どのくらい変態かというと、ポルトガル人が商売のために売りつけた銃をわずか八ヶ月で改良コピーして、『わーいわーい』と国内全土で売りまくったほど。……ましてや彼らの執着心が強い米では……」
ちょっと弱音を吐きたくなってくる。古のポルトガル人よ、お前ならきっと分かってくれるよな。──あああああ、欲望のままにこいつら魔法でフッ飛ばしてえええ。
私が我慢しているのをいいことに、総理はさらにたたみかけてくる。
「しかしこれでは、あくまで代替品にしかなりません。大量にいただいたバフムの利用法にはなりますが。やはり米を戻していただけませんかねえ」
「えー、どうしよっかなー」
せめてもの復讐として、棒読みで答えてやった。自分のケチな復讐心でこの総理がポイントを稼いだと思うと、無性に腹が立つ。
「……ふざけた生物だな、全く」
傍らから、小さなつぶやきが聞こえてくる。総理の連れの言葉だ。顔を背けてはいるが、私の地獄耳を舐めるなよ。
「誰だ、お前は」
私が苛つきながら言うと、総理が答えた。
「おっと、紹介を忘れておりました。彼は私の友人でもありますが……農林水産大臣なのです。色々と言いたいことがたまっているようなので、連れてきました」




