代用米を作り出せ(後編)
「話が煮詰まってきましたね。一応、国内の製造可能なメーカーに要請は出してありました。サンプルがあるので、食べ比べてみませんか」
「ま、まあ……」
「そういうことなら」
意見がまとまると、キッチンからスタッフが出てきた。熱を通した人造米が、小さな容器にわけて盛られている。いわゆる、スーパーの試食スタイルだ。
老人たちは次々とそれを口にして、失意の息をついたり、苦笑いを交わし合う。
「やはりなかなか難しいか」
「突貫工事ですからね、無理もない」
しかし食べ進めていくうちに、彼らの顔色が変わり始めた。
「一つだけ、米にかなり近いな」
「本当に傑作がありますね。最高級品と比べればさすがに落ちますが、これなら十分代用品になるかと」
その反応を見て、総理がゆっくりと口を開いた。
「そちらは、一つ前の試食と同じメーカーが作ったものです」
「技術力が同じなのに、ずいぶん味が違うな。どういうことだ」
総理はその問いを待っていた、というように笑った。
「美味しい人造米の原料は、バフムです。そこからデンプンを抽出して固め、米の形に整形しました」
それを聞き、室内の誰もが愕然とする。
「まさか、あの不味い代物がこう化けるとは……」
「これなら、バフムにも十分利用価値がある」
「完成まで、肝を冷やしましたよ。原料の供給を止められたら、計画が水の泡ですから。彼の動向を探るため、日参した甲斐がありました」
あの魔王が知ったら、どんな顔をするだろうか。かなり怒ることは確実だが、バフムの押しつけをやめたりはするまい。それが侵略の主目的なのだから、やめたりしたら彼は国内の指示を失う。
──作戦の第一段階は終わった。次の手は、相手の出方を見てからうつことになるだろう。
「ですが、あくまで目標は米の流通・生産を完全に元に戻すこと。そのために引き続き対応していきます。私は理想を諦めて、下僕になるつもりはありませんからね」
その言葉にはわずかに険があり、この場にいる者たちへの牽制もこめられていた。反論が出ぬまま解散となり、総理は護衛と共に奥の部屋へ移動していく。その後を、農林水産大臣が追った。
「よくもまあ、あの面子相手に啖呵を切ったな」
部屋の扉を閉めてから、農林水産大臣は苦笑した。
「ああでも言っておかないと、締まりがつかないでしょう」
「実は、お前に関しての聞き苦しい噂が飛び交っていてな。悪いが、俺の周りも心配していた」
「とっくに知ってましたよ。事情を知らぬ傍から見れば、無様なご機嫌伺いに見えたでしょうから。……久しぶりに何か飲みながら話でもしますか」
総理は冷蔵庫に向かって歩き出しかけて、ふと足を止めた。
「近いうちに、あなたにも、あの場所を見てもらった方がいいかもしれませんね。……私の戦場を」
言われた大臣も顔を上げる。
「そうだなあ。地底人とやらの小憎らしいツラも、拝んでみたかったところだ」