代用米を作り出せ(前編)
ある日のこと──美しい澄んだ海に、白い砂浜。ハワイのその一角に建つリゾートコテージに、場違いな老人たちが集まっていた。
「誰かいるか?」
「いや、見える限りでは」
老人の護衛に立っていた若い男たちが、低く呟いた。その声を合図に、外をうかがっていた老人たちが次々と腰を下ろす。いつもはスーツ姿の面々が、今日に限っては鮮やかなアロハシャツまで着ていた。
「ま、最大限の対策はしたからな。これ以上、気を揉んでも仕方あるまい。始めるぞ」
地底人たちに侵略され、国のどこに彼らの監視があるかわからない。そのため、彼らの裏をかくための会議を、総理たちはわざわざ海外で開催することにしたのだ。
ここは日本から飛行機で七、八時間程度かかる。それでも万が一ずっと見られていた時のため、観光だと言い張れるようにアロハ姿なのだ。無論、気休めということは全員が承知している。
やがて閣僚の一人が口を開いた。
「全く、どうしてこんなことに。卑劣な奴らだ」
「初期対応の遅れは、詫びるしかないな」
「お前さんらのせいではあるまい。あんな事態になることを、誰が予測できるものか」
「しかし、国民と国際社会の信頼を失ったのは事実。輸入米も国内に入った途端消え、海外へ輸出するはずだった米も見事になくなった」
今回、総理たちが外国へ出たのは、その経過報告という面もあった。なんとか地底人を押さえ込んだ、と事情を都合の良いように曲げて説明したものの、関係各国の表情はいずれも厳しい。地底人の戦力が読み切れないから戦争にはなるまいが、いずれ手を出してくる可能性はあった。
「こればかりは早急にどうにかせねば、政権の命運はいずれ尽きるぞ」
「外国への説明もいいが、国内の不満も深刻だ。特に米農家は頭を抱えている」
地方の農民票を足がかりにして第一党までのし上がった歴史を持つ。多少変わったとはいえ、地方農家が重要な票田であることに変わりはなかった。
「……まあ、代わりの政権をやりたいなんて物好きはいないでしょうがね。どうせついたところで、あの軟体生物を相手にしないといけませんから」
それまで黙っていた総理が、冷笑を浮かべながら言った。
「とりあえず、さしあたっては国内の米供給と、農家への仕事の斡旋が急務。何か意見のある方は?」
総理に問われて、数人の手が上がった。
「こんにゃくで米の代替品を作っていたメーカーがあったな。協力を依頼しては?」
「あれはあくまで、本物の米に混ぜて、かさ増しのためにやるものです。こんにゃく米だけで炊いたら、それはただのこんにゃくですよ」
「そうか、残念だな……思い出したくはなかったが、やはり解決策としては人造米しかないか」
「アレか……」
「アレはなあ……」
人造米とは、第二次世界大戦後の食糧難の時期に作られたものだ。麦やトウモロコシのデンプンを原料として米を模し、一時期は国も作成を推奨していたことがある。
しかし冷めると美味くない、粗悪なものは炊飯中に溶けてしまう、という問題点があり、結局すぐに姿を消してしまったいわくつきの品だ。
「今の技術なら、その時よりはマシなものができるのでは?」
「それはそうかも。デンプン源となる植物も、色々試せますしね」
賛否の声が入り交じる中、総理がおもむろに手を叩いた。