序章 開かれた時空
とりあえず、といった形で投稿しました。
構想が完成次第、一気に全文下書きした上で全て投稿する予定です。
宇宙。
その懐にあらゆる銀河を包括する、大いなる空間。
幾多の星で生命が育まれているこの壮大な世界を全宇宙ごと進化させたいのなら、選択肢はただ一つ。
それは………。
―銀河の歴史を破壊すること―
「これがパラドックスに思えるか?我が兄弟よ」
広大な星空を一望できるスペースコロニーの展望デッキの手すりに寄りかかりながら、「時間の旅人」は独白した。
もちろん、そこに自分以外の誰もいないことを承知した上での独り言だ。
台詞から読み取る限り、兄弟に思いを馳せているような口ぶりだが、実際は違った。
兄弟よりも遥かに大切で、もっと遠大な夢を見させてくれる人物だ。
だが、たった一人のその人物に再会したいがために、あまりにも巨大な変動をこの宇宙で意図的に起こそうとしている張本人が―しかもあの時、大きな罪を犯してまで全銀河系の生命を救った究極の英雄が―この存在であったであろうことは、全宇宙における誰一人として知る由もなかった。
そう、誰も知らない。
誰一人として知る必要、その余地すらもない。
なぜなら、私がこの宇宙を書き換えさえすれば、全てのことが済む話なのだから。
たとえそれが傍から見て我欲や傲慢と思われても、私の前に銀河系の危機を止めようとしたあの人を救うためならいかなる他人の先入観も振り切れる。いや、知ったことではないとさえ、言える。私が、この私こそが宇宙を書き換える資格を持つのだから。
そこまで思いを巡らせると、彼は手にしていた長いロッドのようなものを握り直し、レンチに似た二つの大きな爪がついている方に思念を送信した。
たちまち、爪同士の間に電磁パルスが僅かに迸る。それを見届けると円形の展望デッキの中心にある大きな穴へと歩いていく。そして、その下にあるものを見た。そこには遥か下方の奥底に位置している、黄金でできた球体がその表面のところどころに黄色いスパークを放ちながら、ゆっくりと回転しているのが見える。
浮遊しているこの巨大な物体の方向に爪先を向ける。
宇宙の中心はここだ。今も昔もずっとここだった。………本来であれば。
そして今、再び真に「宇宙の中心」が意味するものが明らかになる時を迎える。
「さあ、始めるぞ。全宇宙の生きとし生ける全ての生命たちよ」
再び独白すると、彼は目を閉じて思念を矛先に一極集中させ、電磁パルスを強化させた。
瞬く間に勢いづいたパルスの弾ける音があたりの空気を震わす。
彼は目を開け、その矛先をゆっくりと穴の下にある球体へと向けた。
「全てのポータルを、開け」
ただそれだけ、冷たく言い放った。
落雷のような怒号のごとき炸裂音がデッキ全体を揺るがした。矛先から放たれた光線が遥か下方にある球体に瞬時にして到達し、その表面に直撃する。
その電撃を受けた球体は、千の羽虫が一挙に轟くような音を発しながらその表面全体を青いスパークで満たした。
すると、その表面から幾千もの光線が次々に立ち上がり、表面の上空に青い半透明状の長方形のスクリーンを映し出した。そのそれぞれの画面が走馬灯のように著しく展開していく。
それらに一体何が映っているのか理解できないような速度で目まぐるしく映像が入れ替わる。
ただ一人、この時間の旅人だけがそれを知っていた。
全ての宇宙生命に真に生気が宿るには、一度その灯火を消さなければならない。それが実現した時には………私は………。
その褐色の瞳に僅かに滲み出そうとしていた悲哀の色をその奥に無理矢理沈めた彼はこの場所における最後の独白をした。
「頼んだぞ………地球よ」