染まる女
今日は“安心安全ではない”しろかえでです。
飛行機を降りて2台のスマホを立ち上げた。
機内Wi-Fiでは使いたくなかったからだ。
会社のスマホには、商談相手のスティーブからZ●●mのIDとパスコードが記された商談依頼のメールが流れて来た。向こうで商談してから1日半も経っていないのに……
そんな事より私は善幸の事が気掛かりだった。
個人のスマホにも会社のスマホにも何も無い。
『成田着いた』のメッセにも音沙汰が無い。
予定は知らせてあるし、飛行機に乗る前はメッセもくれた。日本は明け方のはずなのに……
堪らず電話を掛けてみたが『電波が届かない』
カレと暮らし始めてから何度か長期の海外出張へ出たけど、こんな事は初めてだ!!
ざわざわと嫌な予感がして私は空港からタクシーを飛ばした。
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カードで支払いを済ませ、エントランスのオートロックのテンキーを慌ただしく押す。
エレベーターのカウント『26』までの、さほどかからない時間が待ち遠しい。
ドアが開いて部屋までの明るい廊下にカートをガラガラ引く音が響く。
いつもより重く感じるドアを開けると、玄関ですらほんのりと暖かく、私の……私達の部屋にはついぞ居た事の無い甘酸っぱい果実系のフレグランスの残り香がある。
『子スズメだ!!』
照明スイッチを叩く様に点けると私の目の前には“善幸の抜け殻”と化した部屋が現れた。
おそらく、ついさっきまで二人はここに居て……ちょうど私と入れ違いに部屋を出て行ったのだ。
私は2つのスマホで善幸に電話を掛けた。
さっきとはアナウンスの内容が違う。
2台とも“着拒”にされてしまっていた!!
両の手にスマホを握りしめ、腕にはコートを引っ掛けたままで私はしばし茫然と立ち竦んだ。
それなのに
左手のスマホのアラームが鳴り、私は我に返る。
律儀な私はスティーブとのZ●●m商談の15分前に鳴るようにしていたのだ。
「とにかく洗濯物だけでも出しておかなきゃ」
キャリーバッグを開けると真っ先に現れたのは善幸へのお土産たち……
私は、それを一つ一つ取り出し寝室のドアへ投げ付ける。
パソコンや手帳や書類を取り除けたらようやくランジェリーポーチなどが出て来た。
私はそれらを提げてランドリールームの明かりを点け洗濯ネットを手に取ると、中には黒い線が1本……
指で摘まみ上げて明かりにかざしてみるとキューティクルが元気に光るストレートロングの黒髪だった。
いったいいくつの女なんだろう??
頭の中にこの髪の持ち主の容姿が浮かぶ。
それは“窓ガラス鏡”に写る私とは違い過ぎる少女……
まるで『手塩に掛けて育てる』様に慈しんで来た年下のカレ……
私に相応しい男に育つ様に、そしてカレに相応しい私である様に
ずっとずっとずっと
努力してきたのに!!!
善幸は私の愛する“すべて”だったのに!!
“女”が洗濯ネットまで使うなんて
推して知るべしだ……
私は自分の洗濯の事なんて忘れ果てて、手に洗濯ネットを持ったままフローリングの床に膝を付く。
フローリングは“二足の靴下”の行き来で川の様に磨かれていて、その向こうにはホコリの岸辺がある。
そしてそのホコリの川原に“甘いキャンディー”のパッケージのカケラが落ちていた。
それは私とカレの為に買った物。
その“カケラ”は“子スズメ”が摘ままれた跡。
だから……
私はフローリングの床を転げ回りながら泣き叫んだ。
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画面の向こうから喋り掛けて来るスティーブの目の……青い瞳の中の瞳孔は細く絞られていて陽気な風貌と相反している。
画面のこっちの私は、部屋に帰ってからもずっとそのままだったスーツ姿で、味も素っ気もない。
向こうは今は真夜中のはず。
こんな“蒸し返した様な”商談にいったい何の意味が??
彼は私を『Ms.』と呼ぶが『Miss』だという事は知っている。
日本の独人女性の部屋模様に興味でもあるのかと、私は自分の“背景”をバーチャルにして置いた。
手痛い“Miss”に今の今まで大泣きしていた事がカメラに写らない様にメイクはガチガチにしたけれど……
ん?ん? 今、“プライバシー”を訊かれた??
思わず「No mention!!」と言ってしまったが、通じたのか通じなかったのか……
聞き取りづらいテキサス訛りは私の“内部思考”をうまい具合に停止させてくれて……
膝の上にのせた洗濯ネットにカミソリを入れる手は半分無意識だった。
気が付くとカミソリの刃は洗濯ネットよりもっと深くザックリと入っていて、タイトスカートやストッキングは血を吸ってズクズクになっている。
まあいい
女はいつも染まるもの……
ニコニコさえしていれば
男にゃわからん事だ。
私は黒楓や黄緑ちゃんの様には、書いたものに情念を落とし込められないのかもしれません。
ちょっと……かなり(-_-;)です。
けど
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