少女視点(パン一切れの値段)
直ぐに周りがスベスベの壁に変わった。人工の物だ。
なにこれ。
穴の突き当りには、スベスベの壁があった。
触っても、見た感じと一緒でスベスベだ。
明らかに、人の作った物だわ。
なにこれ。
塔の外側なのかしら。
不思議な壁を触っていると、奴隷の悪魔が指示をしてくる。
「このガラスみたいな所を触ってくれ。触り続けておいてくれよ」
私が指示どおり触ると、壁に穴が開いた。
私は驚いて、思わず「エッ」って声を出した。
「吃驚しただろう」
奴隷の悪魔の言うとおり、とても驚いた。
吃驚し過ぎていて、自然とうなずいてしまった。
これは仕方が無いと思う。
まさか、触っただけで、ツルツルの壁に穴が開くとは思わない。
奴隷の悪魔は、壁の中へ入ろうとしている。
私は、「アッ」って声を漏らした。
だって、ここに1人で残されるのは嫌だ。
こんなところで、一人ボッチで死ぬのは嫌だ。
絶対に気が狂ってしまう。
たとえ、奴隷の悪魔でもいる方がましだ。
「心配するなよ。君を置いてきぼりにはしないよ」
本当かな。
頼みますよ、悪魔さん。
私は、うなづくことしか出来ない。
ここにいても、どうしょうも無い。
先に進むしか無いのは、私にも分かる。
長いこと、悪魔さんは中を調べていた。
悪魔さんは、壁の穴の下に何か丸い物を置いた。
「ガラスみたいな所から手を離してくれ」
私は、恐る恐る手を離した。
壁の穴は、丸い物の分だけ閉まらなかった。
悪魔さんが、私を手招くので、隙間を這って、壁の向こうへ入った。
ここにいても、しょうがないし、向こう側に興味もある。
隙間は割と大きかったので、簡単に行けた。
壁の向こう側は、大きめの部屋だった。
小さな家くらいの大きさがある。
壁も床も天井も白くて、不思議なことに明るい。
眩しいくらい明るい。
部屋の中は、ガランとしていて、何も無い。
空っぽだ。
部屋の中には、丸い物の他は、長細い物があるだけだ。
何かは分からない。
見たことが無い物だ。
材質は、鉄でも陶器でも無いみたい。
肥溜めが、不思議な部屋に続いていた。
何か夢を見ているみたいで、現実感がないな。
それにしても、この不思議な部屋は何なんだろう。
ここで、行き止まり何だろうか。
悪魔さんは、どうやって、この部屋を見つけたのだろう。
悪魔さんが、パンを一切れと、お肉を千切ってくれた。
お肉を食べるのは、何日ぶりだろう。
良く噛まないと、胃が受けつけなくて、戻してしまう。
それでは、あまりにもったいない。
お肉を噛むと、お肉の味が口一杯に広がる。
思わず、顔がにやけてしまった。
だって、お肉はやっぱり美味しい。
私は「ごちそうさま」と礼を言った。
見習い巫女としての礼儀は教わっている。
病気になっていても、言う必要がある。
人としての常識だ。
「どういたしまして、働いてくれたからね。それより疲れたよ。今日はもう寝よう」
いよいよか。
私は緊張して、心臓がバクバクと鳴っている。
若い男と二人切りで、いるんだ。
本当に怖い。
誰かに助けて欲しい。
そんな人は、どこにもいないけど。
私は、パン一切れの値段から、千切った肉も上乗せされたけど、そんな安い女じゃ無い。
パンとお肉を食べて、少しだけましになった体力が、続く限り抵抗してやるぞ。
体力がつきても、思い切り見下げた目をしてやるんだ。
みてなさいよ。
私は、警戒しつつ、悪魔さんから、離れた場所で横になった。
しばらくすると、悪魔さんが寝息を立て始めた。
あれ、寝たの。意外だ。
もしかして、悪魔さんが、私をさらったのは、この部屋に入るためだけだったの。
二人いないと、入れないから。
良く考えたら、最初から、私を襲うつもりは無いのかも知れない。
病気がうつる可能性が高いから、そう考えても何も不思議は無い。
普通の人は、皆、そうだ。
私に近づきもしない。
こんな病気持ちの女を抱いて、病気になったら割に合わないか。
食べ物もくれたし、悪魔さんから奴隷さんに、変えてあげなくちゃいけないかな。
どっちも、嫌と言いそうだけど。
病気は、今も私を蝕んでいる。
身体が酷くだるくて、関節も筋肉も痛い。
咳も止まららない。
でも、私は、少しだけ楽しくなって、久しぶりに安らかに眠れたように思う。