透明人間になったお嬢様~誤解だらけの婚約生活~
「俺だって辛いんだ、わかるだろ?」
「こんなの地獄だよ」
「もう勘弁して欲しいんだ」
これは我が愛しの婚約者、ハウル・エルセーヌ伯爵令息から放たれた言葉である。
◆◆◆◆
ミエル・シオン伯爵令嬢とハウル・エルセーヌ伯爵の婚約が結ばれたのは今から2年前、15歳の春であった。領地が隣同士、父親同士も親交が深く、子供同士も顔馴染みであったふたりの婚約はごくごく自然に決まったのだ。
「ハウル、今日からは婚約者となるのね」
「君とならきっとうまくやれると思っているよ」
「えぇ、よろしくね」
幼馴染のような関係だったふたりだから、特に燃え上がるような感情の昂りはない。それでも穏やかな幸せが穏やかな家庭を築くことが出来るとミエルは信じていた。
しかし、一年前あたりからハウルの様子は変わってしまった。二週間に一度あった婚約者同士のお茶会は、いろんな理由をつけて一ヶ月から二ヶ月に一度に変わった。やっと逢えたと思っても、何故か遠目にセッティングされたテーブルの椅子。それにさっさとお茶を飲んだら出ていけと言わんばかりに帰らされる。トドメは先月あったミエルの誕生日である。屋敷で行われる17歳の誕生日パーティに当然のようにハウルを招待した。予定時刻より随分遅く到着したハウルは贈り物ひとつせず、途中で退席し、ダンスすら踊ってはくれなかった。
「ねぇ、リネ?わたくしはハウルに嫌われてしまったのよね」
幼い頃からミエルに仕えている侍女のリネはミエルの美しい青い瞳から流れる涙をハンカチでそっと拭き取った。このハンカチはリネのイニシャルを刺繍した上等な生地のもので、造り手はもちろんミエルである。
「まさか!ミエル様のような煌めくようなプラチナブロンドの髪に、深い海のような素敵な青い瞳。触りたくなるようなすべすべのお肌に柔らかなお胸やお尻。ぷるぷるのほっぺに唇をお持ちのお嬢様のことが嫌いな訳ございません。それにお嬢様はお優しいお心をもった尊敬できる主でございますよ」
「ふふ、リネくらいハウル様がわたくしのことを褒めてくださる日が来たら嬉しいけれど……でもきっと無理ね。だって誕生日パーティで一度も私の姿を褒めてはくださらなかったわ」
ハウルは金髪のサラサラした髪を後ろへ撫で上げた所謂オールバックの髪型に、透明度の高いエメラルドのような翠色の瞳、昔から文武両道である彼は細身ながら筋肉質であり、立ち姿が美しい男だった。この数年は高い魔力を活かして王立魔術院で働くようになり、王太子の右腕として活躍していることから多くのご令嬢からチヤホヤされているという噂も聞いている。誕生日パーティに来た彼は遅刻をしていたせいかやや髪型を乱してはいたが、黒い燕尾服を来たその姿に見惚れて、歓迎の挨拶をするのを一瞬忘れてしまうほどであった。彼の瞳の色の深い翠色のドレスと、髪の色のイエローダイヤのイヤリングを付けたミエルであったがそれに対しても特に彼は何も言及しないまま急用が出来たと知らないうちに帰ってしまっていたのだ。
「きっとハウルはこの婚約が嫌なんだわ」
「そんな訳あるわけないじゃないですか!」
「いいえ、わたくしはこのままじゃいけないと思いますの。これではハウルもわたくしも幸せにはならないわ。きちんとハウルに事情を聞いて、彼が望むなら婚約を解消出来るようにお父様に進言しようと思うわ」
ミエルの青い瞳は力強く、リネは力なく頷くことしか出来なかった。
ミエルは本当は幼い頃からハウルのことを好いていた。だから婚約者がハウルに決まった時は涙を流して喜んだのだ。このままいけばハウルと結婚出来るかもしれない。でも彼を愛するが故に、このままハウルが愛していない女性と結婚することに耐えられなかったのだ。
◆◆◆◆◆
あの決意の日から三週間後、ミエルがハウルの邸宅へ向かう日がやって来た。誕生日パーティに来てくれたお礼という口実である。うっかりドタキャンされては困るので、伯爵である父から訪問するという内容の手紙を、ハウルの父親宛に出して貰った。これでハウルは逃げることは出来ないだろう。
ハウルの家に到着すると、ハウルの侍従であるエリックが出迎えてくれた。エルセーヌ家の使用人達にも手土産があり、それを手渡すと恭しく礼をして受け取った。手作りのマドレーヌとそれぞれのイニシャルの刺繍のハンカチである。今まで何度もお世話になった彼らはミエルにとっても家族の一員のような存在であったが、今日婚約を解消すれば二度と会うことは出来ない。ミエルにとってはこれまでの17年間のお礼の品である。もちろん誰にも内緒ではあるが。
庭の四阿に案内されたミエルはひとりでお茶を飲んでいた。しかし数十分してもハウルは訪れない。さすがに遅いと屋敷の方へとぼとぼと歩き出すと、屋敷の影にふたつの影があった。何かを話している様子で、ミエルは木の影にとっさに身を隠した。
「ハウル様、いい加減になさってください」
「わかっている!わかっているんだ」
「先程からミエル様がずっとお外でお待ちなのですよ」
侍従のエリックとハウルの声である。私は息を飲んで、両手で口元を抑えた。
「はぁ……会いたくないんだよ」
「ハウル様……」
「ミエル様は我々に手作りのマドレーヌと手ずから刺繍されたハンカチを使用人ひとりひとりにお土産に持ってきてくださいました、是非ともハウル様からもお礼を申し上げてくださいね」
「なっ……!ミエルはそんなものまで!勘弁して欲しいんだが!」
「ハウル様、いい加減大人になって下さらないと困りますよ」
「だってこんなの地獄だろ?どうしたらいいんだ。俺だって辛いんだ、わかるだろ」
ふたりのやり取りを聞いているだけで心臓がバクバクとして、額からは冷や汗をかいている。呼吸が浅くなるのを必死に堪えた。まさかそんなにハウルに嫌われていたとは想像していなかった。問い正そうとしたミエルだったが、もうそれすら不要だろう。しかし涙が止まらない。用事を思い出しました、帰りますと言おうと思うのだがこんな姿では四阿にも戻れず、彼らの居る場所を通って玄関へ向かうことも出来ない。盗み聞きしていたことがばれてしまう。もうこれ以上ハウルに嫌われたくはなかった。
ミエルは四阿のもっと先に、伯爵家の温室がある事を知っていた。幼い頃はそこでふたりで遊んだことがあったからだ。少しそこにいって涙を落ち着かせよう、そう思った。見つかってもハウルが遅いので散策していたと言えば不自然ではないだろう。
広い庭の隅っこを子リスのようにチョロチョロと走り回り、なんとか見つからずにミエルは温室に到着した。温室はひんやりと涼しく、幼い頃咲き乱れた花は一本も無くなっていた。それだけでなく、所狭しと棚と魔術書や魔術に使うのであろう瓶が並べられていた。きっとハウルの仕事で使うものを収納する部屋として使われているのだろう。
「そうよね、幼い頃仲が良かったのは10年も前のこと、それだけ時間が経てばこの温室と同じようにいろんなことが変わってしまうものなのよね」
ミエルは小さな手持ちのバックから小さな包みを取り出した。ハウルに渡せたら渡したかった彼の刺繍入のハンカチである。婚約を解消する相手に渡せるはずもないのは充分わかっているのに、ミエルはどうしても諦められずに持ってきていた。ハウルのイニシャルに家紋、そして向日葵の刺繍を入れた会心の出来のハンカチだった。向日葵の花言葉は《 あなただけを見つめてる》遠回しに初恋はハウルであることを伝えられたら良いと思ったのだ。そしてそれを取り出して涙を拭う。もう彼の元へ渡されることの出来ないことを思うと、止まりそうだった涙がさらに溢れてくる。
冷たくなった温室にミエルの泣き声が響いていた。
それから少しするとミエルは体が震えてきた。魔術の瓶には魔法薬が入っていて、成分が変わらないように部屋の温度が低く設定されているからだ。ミエルは温室から出ることを決意し、立ち上がる。
その時だった。足がもつれて棚に大きく体を打ち付けた。その反動でひとつの魔法薬の瓶が棚から落ちてきた。ミエルはそれに手をかざすが間に合わず、魔法薬は空中で霧散した。それを全身にミエルは浴びることになったのだ。
「ゴホッゴホッ……大変。ハウルにまた嫌われてしまうわ、大事な魔法薬をだめにしてしまって」
ミエルは床に落ちた瓶を拾うとなにか違和感を覚えた。
(ん?なにかへんね?)
そのまま魔法薬の瓶のラベルを見つめる。
《 透明化 》と書いてある。
そして違和感の理由に気付く。その瓶を持っているであろう自分の手が見えていないのだ。
ミエルは瓶を棚に戻すと身体中をペタペタと触った。確かにミエルの身体はここに存在している。なのにミエルの目には何にも見えないのだ。バックの中からコンパクトを取り出して覗き込む。見えるのは温室の棚だけでミエルの姿は見えなかった。
「わ、わたくし透明人間になってしまったんですの?」
ミエルは透明人間となってしまった。
着ているドレスはそのまま、物体を持つことは出来る。しかしこれからどうしたらいいのかわからなくなってしまった。盗み聞きをした挙句、魔法薬までダメにした元婚約者……ミエルは恐ろしくなってしまった。謝った方がいい、わかっている。悩んだ挙句ミエルは意を決してハウルの元へと向かった。
「お嬢様〜!ミエルお嬢様!どちらにいらっしゃるのですかあああ?」
「ミエル様、まさか庭で遭難?」
「坊っちゃまファンの女にやられた?」
庭にはいつの間にかエルセーヌ家の使用人達が何人もミエルを探している。誰かは木の影を。誰か花壇の裏を。誰かはフラワーガーデンの中を。
ミエルは温室のドアをゆっくりと閉めた。
(このままじゃ出ては行けないわ!)
まさか透明人間になった姿で庭に出てしまえば、彼らをびっくりさせてしまう。それにハウルの作っている魔法薬は極秘扱いのものも多いと聞く。簡単に魔法薬の薬効を明かすことは使用人にも出来ないだろう。
ミエルは温室の隅っこで丸くなって、温室内にあった麻袋を被った。
ーーキィ
ドアが開く音がする。
「……ミエル?いる訳がないか……」
小さく声が聞こえたのはハウルの声だった。(私はここよ!)と言いたいはずなのに声が出なかった。思案しているうちにあっという間にドアは閉められた。
そのうちに夜になると庭にいた使用人は少なくなり夜がふけると誰も居なくなった。ミエルはそっと温室を抜け出し、こっそりと家に帰ろうとした。やっと屋敷の裏口まで到着したところで使用人とハウルの話し声が聞こえた。
「坊っちゃま大変です!先程、ドレス姿の幽霊を見たと庭師の男が言うのです!」
「なに?幽霊だと?」
「青いドレスを着た顔のないというか身体のない幽霊だそうです」
「おまえ、俺を謀っているのか?ミエルが幽霊だと?そんな訳があるか!」
「庭師の男は今日孫の所へ遊びに行ってきて昼間にミエル様が四阿で行方不明になったことを知りません。その幽霊は庭の隅っこを子リスのようにチョコチョコ移動しているも言うのです!」
「確かに今日のミエルのドレスは青だ!子リスのようなことも認める!しかし俺は認めない!ミエルが幽霊など……俺は信じないぞ!」
ハウルは走り去って行った。
(ヤバい!このままドレスを着たまま移動していたら透明人間になっているのがばれてしまうわ)
屋敷の正面には多くの使用人がミエルの家からやって来た使用人と何やら話し込んでいる。このまま外には出られないとミエルは屋敷の裏口からエルセーヌ家の邸宅に入り、正面玄関から人がいなくなるのを待つことにした。
エルセーヌ邸のことはよく知っている。どこになにがあるのか、ハウルの部屋がどこなのかはよくわかっているのだ。そしてミエルは思い至った。透明人間なのだから、ドレスさえ脱いでしまえば自由に移動出来るではないか。
とはいえ、自分の屋敷ですらない、嫌われたく婚約者の家で全裸になる他ないのだ。躊躇したが、背に腹はかえられない。このまままごまごしていたら他の誰かに見つかるかもしれないのだ。ミエルは思い切ってドレスや下着を脱ぎ捨てて、廊下の隅にある大きな壺の中に入れた。この壺はもう何十年も誰も触っていない。ミエルは知っていた。
全裸になったミエルは不思議な開放感でいっぱいになった。ハウルの部屋は2階の隅。音を立てぬようにゆっくりと近づく。
「ミエル……どこへいった?まさか婚約のことで思い悩んで……?死を選ぶほど……。今日こそ婚約のことを話そうとしていたのに」
部屋の中でハウルが呟いている。ハウルも今日婚約について私に話そうとしていたらしい。部屋の中へ入ろうとすると、エリックがハウルの部屋へ向かって駆け上がってくる。ミエルは体をかわして、エリックが入室したのを見計らって一緒に入室した。
「ハウル様、シオン家に事情を説明しましたよ。これからどうなさるおつもりですか?」
「この家で居なくなったのだ。見つかるまで絶対に探すに決まっている。ミエルは絶対死んでなんかいない。わかるのだ、ミエルは近くにいる。感じるんだよ、ミエルの気配がするんだ」
(確かに近くにいます……!)
とはいえエリックがいる手前、名乗り出ることが出来ない。
「俺はもう一度この辺りを探してくる」
「ハウル様は少しお休みになってください!昨日だってろくに休んでおられないんですよ」
「ミエルがいなくなったのだぞ、休んでいられるか」
エリックが制止するもののハウルは自室を飛び出し、屋敷中、庭、屋敷の外周など夜中探し回った。そして朝方温室へ辿り着く。
「まさかな、昼間はいなかった」
温室のドアをゆっくりと開く。そして床にあったモノに気がついた。
「これは……Hのイニシャルにうちの家紋……俺のハンカチか?この刺繍は……ミエルか?」
(しまった!涙を拭いたハンカチを落としてしまっていたわ!)
慌てるが既に時は遅し。ハウルは大事そうに頬に寄せるとポケットにしまった。嫌いな筈の婚約者の作った刺繍入のハンカチをそんなに大切そうに拾いあげるだなんて思わずミエルは今こそ声を掛けようと思ったはずなのに声をかける事が出来なかった。
それでも温室内でミエルを探すことは出来ず、ハウルは四阿に立ち寄り椅子に腰掛けた。
「あの時、もっと早くここに来ていれば良かったのだ……俺のせいだ。俺のせいでミエルはいなくなってしまった……」
(違います!私がいけないんです!)
「きっとこんな俺に愛想を尽かして……」
(悲しかったけど愛想を尽かした訳じゃないです!)
「俺はこんなにミエルを愛しているのに!」
(……ん?)
「ミエルの前ではいつだってカッコよく見られたいからっていつもクールにしているけど、本当は気を抜くと顔がデレデレしちゃうし」
(おおん?)
「うっかり近くに寄ったら抱きしめて触って、キスしたくなっちゃうし……」
(えええ?)
「ここ一年でめちゃくちゃ可愛くなったし、色気まで出てきてめっちゃ我慢してるのに、ミエルは俺の事なんててんで意識してないし」
(い、色気ぇ?)
「誕生日パーティの時のドレスなんてヤバヤバのヤバだよ、俺の色だらけの格好で、すっげー嬉しいけど、それ以上にあのドレスを脱がせて俺だけのものにして閉じ込めたくなっちゃうし」
(ぬ、脱がせて?閉じ込めて?)
ミエルの中のハウルはいつだって大人で冷静で落ち着いた人だった。感情を荒らげることもなく、いつだって穏やかな笑みを浮かべていた。それなのに、今目の前にいるハウルはどことなく子供のようで、でもミエルのことを好いているようで……
(こっちのハウルも好き!!!)
ミエルはもう一度決心した。さぁ言うぞ!と大きな深呼吸をする。
「……!ハウルッ!あのねっ?」
「すぅ……」
椅子に座ったままハウルは寝入ってしまった。それもそのはず、実は一昨日からほとんど眠っていなかったのだ。ミエルに会うのが楽しみ過ぎて……が理由である。
「ミエル……うぅ……ミエル……どこに……」
ハウルは魘されるように険しい顔で眠っている。
ミエルはハウルの横に座るとそっと彼の頭を包むように抱きしめた。
「ハウル……起きて……わたくしあなたに謝らなきゃいけないことがあるのよ」
「ミエル……柔らかい……」
ハウルは顔をすりすりとミエルの身体に擦り寄せるように縋り付く。
「ハウル……恥ずかしいわ……お願い早く……」
「…………」
「ハウル……ごめんなさい」
「……………………」
「!!!この感触!この香り!本物のミエル?!?!」
ハウルは目を覚ましたが、目の焦点は合っていない。しかし、まるでミエルが見えているかのようにミエルの青い瞳をじっと見つめているかのように見えた。
「えぇそうよ。わたくし、あなたに謝らないと」
それからミエルはこれまでの経緯を話した。四阿で待っていてもなかなかハウルが現れなくて屋敷に向かったところでエリックとの話を聞いてしまったこと。温室に逃げ込んだところで誤って魔法薬を被り透明人間になってしまったこと。服を着ていると幽霊扱いされるので全裸になってハウルに逢いに来た事。
「あとね、ハウル。わたくし、ハウルがわたくしのこと嫌いで婚約を解消したほうがいいのかもしれないと思っていたの」
「まさか!そんな訳はない!俺はミエルのことが大好きだ。今までの俺の独り言をきっと聞いてしまったんだろうな、君は」
「ええ、聞こえてしまったの。でもわたくし嬉しかった……あなたに嫌われていないんだってわかって。だってずっと好きだったのよ」
ハウルは項垂れるように前かがみになった。
「俺はなんて愚かなんだ。ミエルは俺の事を幼馴染としてしか思っていないと思っていたんだ。だから俺ばかりが君を好きなんだと。だからどんどん綺麗になる君にどう接していいかわからずにあんな態度になってしまって……誕生日パーティだって綺麗過ぎる君を見て何も言えずに、ダンスを踊ろうとしたら体が密着すると思ったら……それだけで身体がおかしくなりそうで……。プレゼントも用意したのに渡せずにいるんだ」
ミエルはハウルの手を取りながら話しかける。
「ハウル、わたくし達はまだはじまったばかり。これからまた新たな関係を築けるかしら?」
「新たな関係?」
ハウルはピンと来ない様子で、ギュッとミエルの手を握り返す。
「今までは幼馴染で婚約者。今日からは……こ、恋人で婚約者……なんてどうかしら?」
ミエルは自分が透明人間であることを心から感謝した。きっとこんな事は透明人間でなければ恥ずかしくて言えなかった。顔が真っ赤なのは誰にも見えないのだから。
「最高だ!ありがとう!ミエル!」
抱き着いてきたハウルの手の先には温かな温もりのふっくらとした頂きがふたつ並んでいて、この幸せなやり取りの最後はミエルのビンタで終わった。
頬に紅葉を飾ったハウルは裸の恋人を横抱きにしてこっそりと自室に戻った。
そして数カ月経った頃。
夜な夜なあの魔法薬を飲んだハウルがミエルの部屋をこっそりと訪れるようになるのは……ふたりだけの秘密である。
魔法薬は12時間後位で切れます。
どのタイミングでとけたのかは……ふたりのみぞしる。