目覚めたら、汚部屋でした
初投稿です。よろしくお願いします。
--ああ……、わたくしって……、
身体の中でお湯が沸いているように熱い。
脳が溶けてしまいそうに、何も考えられない。
ーーーこのまま、なにもできずに死んでしまうのね……
暗い狭い居室。助けにくる人は誰もいない。
ゴウン、ゴウンと重たい機械音が響き、遠くでは私を嘲るような人々の声。朝日すら届かない哀れな場所で、私は戦わなければならなかったのに、
意識を保とうとするも、衰弱した身体の方は苦しみから逃れようと目蓋を閉ざそうとしてくる。
ーーーーごめんなさい、
涙が顔を伝って流れるのすら、冷たくて気持ちが良いのだと、そんなかすかな感覚を幸せに思って私の意識は闇に沈んでいった。
☆☆ ☆☆ ☆☆ ☆☆
ぴちち、ぴちち、と小鳥が囀っている。分厚い遮光カーテンの間から朝日が差し込んでいる。まだ青みを帯びた日の色は朝が早いことを告げていて、アラームより大分早くおきてしまったことがわかる。
枕元で充電しているはずのスマホを手に取ろうとして、寝ぼけ眼でまさぐるが、見つからない。仕方なしに起き上がってきょろきょろすると整理整頓という概念のないほど汚い部屋が目についた。
ーーーなに、この狭くてきたないところ。
たしか、たしか私がもともといたのは……、と記憶を探って見るもどうも同じように狭くて、湿っぽくて、汚いところにいたような気がしてならない。
よく、覚えていないのだ。
しかし、じわじわとこの部屋の持ち主であった『私』の記憶が思い出されてくる。そうだ、○○とかいう会社で働いていて、26歳で、女性で、遅くまで残業しているから家に帰ってきても特に何もせず、ただ部屋で寝るだけ。
ーーーーそれで、この惨状。
さすがにお弁当の箱などはゴミ袋に入っているが、ローテーブルの上は食卓用の塩や調味料、輪ゴムでくくったお菓子などから、化粧水、日焼け止めや鏡など生活に必要なものが散乱している。
そして座布団の上には雑誌や新聞、職場でいらなくなったのであろう書類などが雑多にまとめられている(まとめきれているとは言っていない)。冬物のコートから薄手のシャツまで季節を問わない服も床に鎮座しているし、長い間の怠惰が透けて見えるようだった。
壁掛け時計は電池切れだったので、テーブルの端で投げられていた腕時計で時間を確認したところ、朝の5時40分。この身体の記憶は、6時半にアラームをセットしていたはずだから、それまで片付けてしまおう。
そうでなければ耐えられない。
ーーーーそうよね、わたくしのような元、……元、なんでしたかしら?
何か大切なことを忘れてしまったような、そんな気がしたけれどそれよりもこの汚い部屋にいたくない。
スマホのアラームが鳴り響くまで、ちょっとでもいいからゴミと空気の入れ替えを。私はその使命感でいっぱいになって手早く窓を開け始めた。