青い薄闇色した恋心
朧月がのほほんと空を照らす夜遅く。立ち止まり寄り添い眺める二人以外、誰も居ない川沿いの遊歩道。恋に騒ぐ猫達の姿も無い。
脇に流れる一本、夜の黒さを混ぜ込んだ水、とぷんと眠くたゆたゆ動く。
軽い音立てた後、ゆっさと揺れた彼等の上は、妖しさをより一層深めた花の群れ。
花の群れ、クスクス笑うように揺れている。
澄んだ清水の様な、吸い込めば染み渡る冷たい甘露の様な、花達が吐き出す吐息が辺りに広がる夜遅く。
風も吹かぬというのに、五弁のヒトツヒトツが紅色の萼からチッチッと離れ、二人の周囲に舞い落ちる。
ひらひら。至極淡い淡い、薄紅色の花びらが、群れから離れて落ちてゆく。
戯れに満開の枝をポキリと折り、女に差出し微笑む男。受け取ろうか、たしなめようか、女の中で始まる葛藤。
そんなことをしてはいけないわと、女は道徳を述べる。自身が正しく汚れのない女だと言わんばかりに。
ははっ。酔ってるせいだよ。普段はこんな事はしないさ、便利な常套文句で罪を終わらす男。
髪に花びらが。男は女の頭に手を伸ばす。きっちりシニヨンでまとめたそれに手を伸ばす。ほんの少しばかり前の時間、くるくる、指先に絡め、梳き弄んでいたそこへと。
いちまい、蝶々の羽を摘まむように、優しく指先で挟む花びら。逃がすように空に放す。
フワ。スゥ、落ちる落ちる、白い花びら。人に触れたせいか、無垢なるままに空を舞うのとは違い、微かに二人の罪咎を背負ったかのように、重さを帯びた髪に触れた花びらいちまい。
「いらないのなら持って帰るよ」
白い花が群れて咲く小枝を握る男が言う。
「庭のが落ちてたから拾ったと言えば済む」
身体の向きをくるりと変え、動き出した自分の中の時間に合わせる様、歩き始めた男。
背を追い隣に並び歩く女。
「あの桜の木、まだ朽ちずに生きている」
幹にウロがある、男の屋敷に植えられている木を思い出し呟く。
その下で頬を寄せ肩を抱かれ、甘い時を過ごしたのは、遠い昔ではない。
遠い昔ではないが、遥か彼方の時の様に感じる女。両親に呼び出され、突然聞かされた破談の話。どこからか横槍が入ったらしい、示談金を提示され女の両親はあっさりと受け入れた。
「生きている。僕達のようにね」
青い薄闇色したゴーストの様な相手の恋心を、お互いの身の内奥深く焼け付き残している男と女。
出逢ってしまった、二人。
忍んで逢う。
リアルから離れ、歯止めは利かない。
魂と躰の乾きを癒す。
切なく重ねあう、全て。
ひだまりのねこ様から命名していただきました
薄闇・ゴーストブルー
といふ、二つ名を、厨二思考マックスでしかも千文字にまとめたいという、暴挙に出たのです
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