龍火山
「おはようサフィー!!」
朝になると、サフィリアがフランを伴って俺達を起こしに来てくれた。サフィリアとフランは昨日と同じような服を着ていた。2人とも朝は強いのか、きっちりと身なりを整えていた。そして、現在は朝食をいただくために食堂に来ていたのだが、サキ・リリスは昨日同様にサフィリアを強く抱きしめていた。
「リリス様、これでは食事ができません」
辛うじて顔をサキ・リリスの胸から上げてサフィリアは言う。
「おっと、悪い悪い」
サキ・リリスはサフィリアを抱きしめていた両腕を解き、自分も食事の体制に入った。心なしかサフィリアがほっとしているように見えた。
食卓には、ローズブラッドの食卓とそれほど遜色のない魔物の料理が並べられていた。唯一ちがったのは、テーブルに置かれた調味料であった。淫魔族たちはそれをこぞってかけて料理は食べていた。
「それはなんですの?」
「これかい?」
サキ・リリスがテーブルの上のビンを持ち上げて言う。その中には、何やら赤い液体が入っているようだった。
「ええ。そういったものは私の村では見たことがなかったのですわ」
「うーん……教えてもいいけど、誤解しないでおくれよ?」
サキ・リリスの言葉を訝しみながらも、頷く。
「これは血さ」
「「血!?」」
マリアとキリエが驚きの声をあげる。
「私達淫魔族は他人の生命エネルギーを糧に生きているというのは知っているね?」
昨日サフィリアが言っていたな。
「その生命エネルギーは体液に多く含まれている。だから、血を食すのは私達にとって効率のいい食事の方法なのさ」
「なるほど」
「その料理にも血が使われているんだけど、お味はどうだい?」
昨日の晩餐もそうだったが、ひどく美味である。血を使った料理がこんなに美味いとは思っていなかった。
「ついでに、精もつくよ。いっぱい食べな!」
キリエが吹き出し、テーブルに少しの汚れを付けた。
「お口に合いませんでしたか?」
ソフィアがテーブルを拭きながら問う。
「い、いえ、お料理はとても美味しいのですわ。少し、昨日のことを思い出してしまっただけなのできにしないでくださいまし」
キリエの顔は少し赤くなっていた。熱でもあるのだろうか。
「そういえば、昨日サフィリアには聞いたんだけど、なにか気になる噂とか、伝承とかってないかな?」
食事もそこそこにして、本題に入ろう。俺は、昨日サフィリアに聞いたことをサキ・リリスにも聞いてみることにした。
「噂に伝承か……」
サキ・リリスは何か思案していたが、思い出したように話しだした。
「少し南に行ったところに山があるんだけどね―――」
「リリス様」
そこまで言ったところでサフィリアが口を挟んだ。
「この者たちをそこまで信用するのはいかがなものかと」
「大丈夫だと思うよ。少なくとも私はね」
サキ・リリスはあっけらかんとして言う。その様子になにかを察したのか、サフィリアは押し黙った。サフィリアを慰めるように頭をくしゃくしゃと撫で回してから、サキ・リリスは続けた。
「南の方に山があるんだけどね、その山には龍が住むと言われているんだよ」
サキ・リリスは窓を指差して言った。窓を見てみると、確かに少し遠くに大きな山が見えた。平地にポツンとある山は、ひどく異質に見えた。
「龍……ですか……」
龍といえば、ドラゴンゾンビを思い出す。あの巨体で、俺達を苦しめた。あれは骨だけであったが、それが血と肉の通った状態だと、あの比ではないだろう。
「龍なら一回、ドラゴンゾンビを倒しましたわよね」
「ほう、ならば安心だね。あの火山は凶暴な魔物の巣窟となっているんだが、あんたたちなら心配いらなさそうだ」
サキ・リリスは豪快に笑ってみせた。




