サキ・リリス
「リリス様、この者たちが、霧の森を抜け、魔族の領域へとやってきた旅人たちです」
「サフィー……」
サキ・リリスはサフィリアを抱きしめ、豊満な胸へと顔を押し付けた。サフィリアはすごく苦しそうだ。
「そんな堅苦しい言葉遣いはやめな。あんたたちは私の娘みたいなもんだって言っただろ? ほら、フランもおいで」
「わーい! リリス様大好きー!」
フランは自らサキ・リリスに抱かれに行き、サフィリアと同じように豊満な胸に埋もれていった。
「すまないね。私の娘たちが失礼を働いたようだ。心から詫びよう」
サキ・リリスは頭を深く下げた。
「一つ良いでしょうか」
マリアがおずおずとした様子で声を出した。
「なんだい?」
「魔族とは、私達人族を滅亡させるのが悲願なのではないのですか? 見たところ、皆さんは私達に友好的ですが」
その質問に、サキ・リリスは一度キョトンとした顔になってから、大笑いした。大笑いした時に腕の力が弱まったのか、サフィリアがサキ・リリスの腕から抜け出した。
「サフィー、説明してやりな」
「はい。リリス様。私達淫魔族は、他人の生命エネルギーを糧として生きています。特に人族の生命エネルギーは短命でありながら美味であり、吸収率も非常に高いのです。そして、私達はそこらの低俗な魔族たちと違い、理性的なのです」
「理性的?」
「そうさ。他のやつらは、人族のことを食料や労働力。家畜としか価値がないと考えていて、人権尊重なんてもってのほかって奴らばっかだけど、私達淫魔族は人族も魔族も平等の命があり、やりすぎれば滅亡してしまうことを知っている。だから、できるだけ友好的に接して、美味しいところを末永く頂こうって腹なのさ」
「なるほど。魔族にもいろいろいるのですね」
「そりゃそうさ。人族にも色々いるだろう? それとおんなじさね」
それもそうか、と俺は1人納得した。
「この村に滞在するならこの館を使いな。部屋は余ってるからね」
「ありがとうございます」
「ところで、話が変わるんだけど―――」
「ちょっとまってくださいまし!」
俺が本題に入ろうとすると、キリエが俺を制し声を上げた。
「あの、えっと……」
キリエがバツが悪そうにもじもじする。それから深呼吸をし、覚悟を決めたように口を開いた。
「先程は申し訳ありません。門扉を壊してしまって、ソフィアさんにもご迷惑をお掛けしましたわ」
キリエは机に額を擦りつけ、謝罪をした。暴走していたと言っても、やったのはキリエだからな。いや、暴走してたから尚更なのかもしれない。
しばらくの沈黙のあと、サキ・リリスとサフィリア、フランは顔を見合わせ、目をぱちくりさせたかと思ったら、サキ・リリスとフランが大笑いした。
「何をいうかと思ったらそんなことかい」
「ソフィア、怪我したの? それとも他の娘たち?」
「いいえ、私たちは魔族。人族よりも体は丈夫なのです」
それでも顔をあげないキリエを見て、サキ・リリスは思いついたかのように顎に指を付けて言い出した。
「でも、門扉の修復は容易じゃないね。壊した責任を取って、手伝ってくれるかい?」
「はい! もちろんですわ!」
キリエは目を輝かせてがばっと顔を上げた。サキ・リリスという女性は、とても優しい人なんだと、心底思った。




