幕間:五章
「あいつら、戻ってこないな」
「いつもならそろそろ戻ってくる頃なんだけどね」
2人の魔族が話している。1人は、側頭部から後ろに伸びる短めの角を生やし、ぴっちりとした服を着ていた。もう1人は曲がった角を2本生やし、尻尾をくねくねと動かしている。胸元が大きく露出した服を着ていて、尻尾の先はハートマークになっている。この2人は、淫魔と呼ばれる種類の魔族であり、この種類の魔族は、女性しか生まれないという特徴があった。
2人は、霧の森の方角を見ていた。霧の森は、年中霧がかかっている不可思議な森で、人族の陣地との境界線であると言われていた。
先日、性懲りもなく出ていった獣魔の青年、グレールが戻ってくるのを待っていたのだ。
獣魔とは、魔族の種類の一つで、全身に体毛を蓄え、知能の高い獣のような姿をした者たちのことである。
グレールは、少し離れているが最寄りの村の領主の息子だ。その村は人族の撲滅に積極的で、よく息子を霧の森へ送っている。今回も、グレールは父親の命令という名目で、霧の森に出向いていたのである。
「フラン、ちょっと見てくるよ」
「そうね。気をつけなさい」
露出高めの淫魔が言うと、ぴっちり服の淫魔が注意を促しながら背中を押した。
「いってきまーす」
露出高めの淫魔フランは、精霊魔法で風の翼を作り出し、飛翔した。
フランは、遠く離れた位置から霧の森のある丘の淵に人影を見つける。
「あれかな?」
フランが凝視すると、それは奇妙な人影だった。1人は赤いドレスを身にまとっていた。1人は紫の十字架のようなものを背負っており、一番背が低い。もう1人は、白いワンピースを着ている金髪の少女であった。
「あれ、男の子じゃない? フラン、男のだーいすき!」
フランは空中で求愛のポーズをし、尻尾をくねくねとさせた。淫魔は男性が生まれない種類の魔族だ。その性質上、子孫を残す為の本能が一際強いのだ。その中でも、フランは特別本能に正直であり、また、無垢であった。
フランは精霊魔法で風を体の周りに纏わせ、気配を完全に消し去り、ゆっくりと3人に近づいた。着地にも最新の注意を払い、一切の音が立たないように3人の後方に着地した。そして静かに忍び寄り、3人の後頭部に手刀を叩き込み、意識を奪った。
「男の子げっとー!」
フランは満面の笑みで男の子を担ぎ上げると、村へと帰っていく。帰ってこないグレールの事など、彼女の頭には欠片も残っていなかった。




