昏倒
翌日、俺達は魔導石を持って霧の森を訪れていた。村を出るときに挨拶は済ませてきた。村のことは村長であるガリスもいるから、心配は無いとのことだった。
湖の中心には、スイが刺さっている。今度は、俺の練習も兼ねて俺が氷魔法を使う。
「フリーズ」
すると、湖の半分が凍りついた。どうやら、精霊力を込めすぎたらしい。やはり練習は必要だな。
「もう驚きませんわよ……」
キリエが苦笑いしている。十分に驚いている気がする。
俺はスイを引き抜いた。その剣身は細身の直剣であった。見るものを魅了する美しい細剣は、ほのかに青く光っていた。
『遅かったですね』
「ごめん、昨日は疲れてたんだよ」
『別にいいですよ。ここに1人でいるのにも慣れましたから』
『一々棘がある言い方をしやがって』
『なんですか?』
「2人とも、喧嘩はやめてくれよ?」
『ちっ』
『ごめんなさい……』
俺はスイの剣先を魔導石に当てる。すると、透明な魔導石が綺麗な水色に変わった。そして、同時にスイの剣身が少し縮んだような気がした。
「あれ? なんか縮んだ?」
『そうですね。私の剣身は私の精霊力そのものですから、それを少し失うということは剣身も縮むということなのです』
「そうか。ちょっと悪いことしたかもね」
『いえ、私はあなたと共にいきたいのです。少し剣先が削れたところで、些細な問題ですよ』
「ならいいけど」
俺はスイを十字鞘に収め、土魔法で簡素な岩の台座を作り、そこに魔導石を置いた。
「これで大丈夫かな」
「マリア、これは女の勘というものなのですけれど……」
「キリエさん、余計なことは言わないほうがいいですよ」
声が聞こえたのでマリアたちの方を振り返ると、慌てるようにキリエが「なんでもない」と身振り手振りを交えて言った。
『もう少しです』
スイの案内の元、俺達は森を進んだ。森はそう入り組んでいるわけではなく、直線的に進んでいくと開けた平地が広がっていた。遠くの方には村らしきものも見える。しかし、俺達がいたのは丘の上だった。もっと平地を予想していたのだが……。
「2人とも、手をつないで」
「え?」
「はい」
マリアは俺の左手を握り、キリエは素っ頓狂な声を出していた。
「ほら、飛び降りるからさ」
「え? ここからですの?」
俺は当たり前だと言わんばかりに頷いて見せた。
「え、まじですの……? い、いえ。もう驚かないと言いましたものね!」
キリエはぎゅっと俺の右手を握る。
「エアロ、力を貸してくれ」
『オッケー』
「いくぞ!」
俺の掛け声で一緒に丘から飛び降りる。丘は20mくらいの高さだろうか。キリエは叫んでいたが、マリアは平然としていた。俺は精霊魔法【エアリアル】で俺達の周りの空気を操作し、落下速度を着地できるくらいまで落としながら降下した。足が地面に付き、無事着地する。
「大丈夫だっただろ?」
キリエの方をみると、キリエは涙目だった。
「そ、そうですわね……」
あくまで気丈に振る舞うつもりらしい。
「マリアは大丈夫だった?」
「はい。もちろんです」
あっけらかんとした笑顔で言うマリア。
その笑顔を見た瞬間、俺の意識は闇へと沈んでいった。




