水の剣
湖の霧が晴れ、湖の全貌が露わになる。大きな湖の中心部には、小さな島があり、そこにはひと振りの剣が刺さっていた。
「あれがあなたたちの探している剣ですの?」
「たぶんね」
「なら、私が道を作って差し上げますわ。水魔法は使えないのでしょう?」
キリエを先頭に、湖の淵に立つ。
「フリーズ」
足元の水が凍り、足場となる。
「しっかりついてきてくださいましね」
キリエは魔法を使いながら、湖の中央へと歩いていく。その後ろを、俺とマリアはピッタリと付いて歩いた。
中心部の島は、人が9人ほど入ると座れなくなるくらいに狭かった。これは島というよりは岩山とでも言ったほうがいいかもしれない。
島には剣が一本真ん中に突き刺さっており、その剣からはうっすらと漏れでるように霧が発せられている気がした。
『触れてみろ』
「うん」
俺は剣に触れた。すると、俺の中になにかが流れ込んでくる。それに呼応するかのように、魂が鼓動した。
声が聞こえてくる。綺麗で透き通った水のような声だ。すべてを魅了するような、そう、先程の女性のような声が聞こえてきた。
『選ばれしもの。あなたの力、しかと見せてもらいました。私の名はスイ。あなたの名前を聞かせてもらえますか?』
「俺の名前はケント。よろしく、スイ」
『どうだ! 俺の炎はよ!』
『あなたもいたのですか。あれはケントの力。あなたの力ではありませんよ。勘違いしないでください』
自己紹介もそこそこに、ホープとスイが言い合いを始めた。水と油ならぬ、水と炎。仲が悪いのかな?
『おい、ケント! 【顕現】教えるからスイと戦わせろ!』
『馬鹿者が。ケントを無駄に疲れさせるでない』
エクスがホープを諭す。
「2人はずっと仲悪いの?」
『まあ、そうだね。ボクたちは剣になってからの付き合いなはずなんだけど……』
『やっぱ水と炎だからねー』
『水は火を消し、炎は水を蒸発させるからな』
「なるほど」
「2人とも、喧嘩するなら聞こえない所でやってくれますか? 気が散るので」
マリアが静かな笑顔で言う。そう、笑顔なのだ。笑顔なのだが……何か底知れぬなにかを感じ、俺は身震いした。
『『は、はい……』』
精霊2人を黙らせるなんて、一体何者……? もしかしたら、これが王女の力なのかもしれない。
「お二人共、ここでの用はこれでおわりですの?」
キリエが心底疲れた顔をしながら口を開いた。
「そうだね。剣も手に入れたし」
『待ってください。ここの霧が晴れれば、魔族が自由に行き来できるようになってしまいます。それは人族の滅亡をも引き起こしかねません』
どうやら、魔族の活動範囲を制限していたのは、この森の霧のようだ。でも、そういうことなら、これまでと同じだ。
「わかった。キリエ、魔導石を譲ってくれないか?」
「え? 魔導石は貴方方のおかげで採れるようになったのですし、別に構いませんけど、何に使いますの?」
「スイの力を注いで、霧を維持する。魔族が押し寄せてくるのは困るだろ?」
「そんなことができるんですの!?」
『大丈夫大丈夫! 私のときもやったからね!』
ヒメの時も、森は砂漠にならなかった。つまり、今回もこの案でいけるだろう。
「では、一度ローズブラッドに戻りますわよ」
俺達は、スイを一度置いて、村に戻ることにした。




