森羅万象
俺は、グレールの爪を確実に叩き折れると思っていたのだが、勘がいいのか、当たった瞬間に威力を受け流されたようで、グレールの爪にはヒビが入っているだけだった。受け流されたヒメが地面に大きな溝を作っている。
グレールはすぐさま距離を取り、追撃から逃れる。
「な、なんだそれは! 俺の爪をやすやすと折りかねないその威力。普通の剣ではありえない!」
ひどく狼狽しているグレールに、俺は得意げに答える。
「こいつはヒメ。地の魔剣だよ。めちゃくちゃ重いから、威力も桁違い。その代わり、持つのに一苦労な面があるけどな」
グレールはゆっくりと後ずさりしながら叫んだ。
「おまえら! 時間を稼げ!」
しかし、その声に答える者はいなかった。
「あら、誰に言っていますの?」
グレールは俺に気を取られて気づいていなかったようだが、周りの魔族はキリエの自由自在に動き回る12発の弾丸に翻弄され、死んでいる者か、生き残ってはいるものの、身動きが取れない者しかいなかった。
「リモートバレットですわ」
「ありえない! なんなんだお前らは!」
「俺はただの剣士だ」
「踊る銃士と呼ばれていますわね」
「ただの大神官長ですよ」
「くそっ」
グレールが背を向け走り出すと、何かにぶつかったように尻餅をついた。
「なんだこいつは!」
「結界を張らせてもらいました。逃げ場はありませんよ」
マリアが結界を張り、逃げ出すことができないようにしていたようだった。
「ケントさん。残りは生きたまま捕らえてくれますか? 彼らがどこから来たのかを聞き出したいのです」
「待ってくださいまし。こいつら、素早いですわよ? 生け捕りは難しいのではなくて?」
「大丈夫だよ」
俺はミコトを【雷鎖】で繋いでからヒメの刀身に巻きつけた。そして、ヒメをそのまま地面に突き刺した。突き刺したヒメは、まるで水に沈んでいくように、刀身が全て地面に埋まってしまった。
「世界剣ユグドラシル」
俺は一言呟き、ヒメを一気に引き抜いた。引き抜かれたヒメの刀身は、白く輝く美しい姿になっていた。
『きたきたきたー!! ついに私の真の姿をお披露目する時が来たみたいだね!』
「それが真の姿なのですか」
『そゆこと! まあ見てなさい!』
「ヒメ、やるぞ」
『おっけー!』
俺は再び、ヒメを地面に突き刺す。今度は埋まっていかず、刀身の半分くらいまで刺して直立させた。
「森羅万象」
俺が呟くと、周りを一陣の風が吹いた気がした。そして、次の瞬間、魔族たちの足元から植物の弦が生えてきて、魔族たちを絡め取り、身動きができないようにした。
「な、なんですのこれは……」
「自然を操る力……ですか?」
『そうだよ! 僕の真の姿、世界剣ユグドラシルは世界の大地そのものみたいなものなんだ。だから、この大地に住まう植物たちに協力してもらう事ができるってわけ』
「凄まじいですわね」
「その代わり、精霊力の消費も相当なものだけどな」
俺達が悠長に話していると、グレールの咆哮が聞こえてくる。
「貴様ぁ! よくもこんな……こんな……!! 俺は負けないぃ! 負けないぞおおおぉぉぉ!!!」
グレールの体毛がみるみるうちに赤色に変わっていき、ヒビ割れた爪は再生した。そして、弦を力ずくで引き千切った。
「殺してやるよ!!」
グレールがすごい勢いで飛び掛って来る。それを、植物の弦で絡め取り、止める。しかし、グレールは弦をものともせず突進してくる。
「あいつは化物ですの!?」
「じゃあ、これならどうだ」
グレールの腕と足に次々と弦が絡みつく。その早さはグレールが弦を引き千切る早さを凌駕した。さらに、絡みついた弦に次々と弦がからまっていき、それは一つの大樹のようになった。グレールは腕や足を動かそうともがくが、さすがに大樹となった弦を引き千切ることはできなかったようで、諦めたように項垂れ、それと共に体毛ももとの色に戻っていった




