霧の中の戦い
そこには、二足歩行の狼を先頭に、ざっと30近くの魔族がいた。
「おまえら! 今日はついてるぜ。こんなに早くも獲物に出くわせるなんてな!」
「さすがはグレールだ! 魔族一、鼻が効く男だぜ!」
先頭の狼が後ろの奴らに向かって叫ぶ。その声に呼応して、後ろの奴らが雄叫びを上げる。
「どうしてこんなところに魔族が……」
「どうして、だと? この森の近くには俺達の町があるからに決まってるだろうがよ!」
先頭の狼がヒャハハハと下品な笑いを飛ばす。
「俺の名はグレール。人間を滅ぼすものだ!」
名乗りをあげるや否や、グレールと名乗った人形狼は、マリアに向かって爪を構えて襲い掛かってきた。俺は十字鞘で受け止めようとしたが、奴の動きは素早く、突発的だったため、一緒に後方に弾き飛ばされ、後方の木に叩きつけられる。ミコトの【雷鎖】で繋がっていたキリエもつられてに飛んできて、遅れて木に叩きつけられた。
「……なんですの? 今の馬鹿力は……」
少し咳こみながら、キリエが言う。
「マリア、大丈夫か?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
マリアもキリエも無事のようで一安心した。
「けっ、人族ってのは弱いな。この程度で吹き飛ぶのかよ」
「なんですの! いきなり攻撃してくるなんて、非常識ではなくて!?」
キリエが気丈に叫ぶ。それに、グレールは笑いながら答える。
「魔族が人族を殺すのに理由なんていらねえよ。おまえらを根絶やしにして、魔族の時代を作る。ただそれだけだ!」
また、グレールが爪を突き出しながら飛んでくる。俺はホープを取り出し、爪を斬りつけて威力を相殺しようとした。
だが、微妙に押された。
『なんて力してやがる!』
「くそ!」
俺は空いている手で腰から木刀を抜き、グレールに振るった。それを躱すようにグレールの姿が切りの中に消える。
「どこにいった?」
辺りを見回すも、霧のせいでグレールの姿は影も形も見えない。
「こっちだぜ!」
俺の横方向から声が聞こえたと思った瞬間には、目と鼻の先にグレールの爪があった。俺は咄嗟にホープで受け流したが、木刀を持っていた方の腕に爪が突き刺さり、軽く肉をえぐった。俺は痛みで持っていた木刀を落としてしまう。
「ケントさん!!」
マリアが心配そうな声を出す。
「回復!」
マリアの神聖魔法が、俺の傷を癒やす。抉れた肉はみるみるうちに再生し、血も止まった。
「ありがとう。マリア」
「この霧の中で戦うのは相当不利ですわよ。相手は私たちの位置がわかっているようですし」
「霧を晴らすのなら、考えがある」
俺はホープを強く握った。
「作戦会議は終わったかよ。なにしても無駄だけどな! この霧がある限り、お前たちは俺達の居場所がわからない。だが、この俺は匂いでお前たちの居場所が手に取るようにわかるのさ」
ヒャハハハとグレールが高笑いする。だが、笑っていられるのも今のうちだ。
「【炎舞・業火】!」
俺がホープを振るうと、辺りに炎が放射された。その炎で、霧が晴れ、魔族の姿がはっきりと見えるようになった。
「なに?」
「これで形勢逆転だな」
俺はにっと笑って見せてやった。
「これで形勢逆転? 何言ってやがる。むしろこれで俺達の勝利は確定的なものへと変わったんだよ」
グレールの後ろには、30体近い数の魔族がいた。皆、グレールと同じような姿をしている。
「おめえら! やっちまえ!」




