霧の森
翌朝、俺とマリアは朝食を食べながらキリエの父、この村の村長の話を聞いていた。村長の名前はガリスと言うらしい。
「あの禁足地を、霧の森と私達は呼んでいる。あそこに迷い込んでしまうと、散々歩かされた末、自分が入ってきたところに戻ってくるという不思議な場所だ。森の中は深い霧が立ち込めており、数メートル先も見渡せないくらいだ」
「それだけですの? それだけなら、ただ骨折り損になるだけでしょう。どうして禁足地なんて呼んでるんですの?」
「それは……」
ガリスは少しの間押し黙っていたが、意を決する様に口を開いた。
「この話を余所者にするのは気が進まないのだが―――」
「よそ者ですって!?」
キリエがバンと机を勢い良く叩き立ち上がる。
「ケントとマリアはこの村の為によく働いてくれていますわ! この村にはなかった信仰まで生まれましたわ! そんなにこの村に貢献してくれている人たちを余所者なんて呼び方するのはやめてくださいまし!」
キリエの鬼の形相に、ガリスもたじたじのようだ。しかし、そこまで怒るほどのことか?
「いえ、私達は所詮は余所者です。たとえ良いものであっても、外から流れ込んでくるものを嫌悪する方は山ほどいると思います。ですが、私達は止められようと、拒否されようと、霧の森へ向かうでしょう。私達がここまでやってきた理由は、そういうところに赴き、魔剣を集めることなのですから」
「そうだと思ったから、お話しようと思ったのだよ」
ガリスは椅子に座り直し、咳払いをしてから続けた。
「キリエの言うとおり、ただ迷うだけなら禁足地なんて呼び方はしない。そこには、恐ろしく強い魔物が出るらしいんだ」
「恐ろしく強い魔物……ですか……」
「そうだ。その魔物の姿形は、美しい美女だったとも、龍だったとも、はたまた宙を泳ぐ巨大な魚だったとも言われている。だが、一貫して同じ特徴だったものがある。それは、水を操るということだ」
『ケント』
「そうだな」
俺にはわかる。それは、魔剣だ。きっと、ヒメのようにその森周辺の守り神のようなものになっているのだろう。恐らく、霧は精霊力で作られた結界だ。
「死者が出たということもあったと言い伝えられている。それ故、おもしろ半分で入っていく者が現れないように、禁足地としていたのだ」
「そうだったんですの……」
キリエが怒りを収め、静かに椅子に腰をかける。
「ガリスさん、ありがとうございました。決して、この村に害が及ぶことはしないと約束します。王家の名にかけて」
「王家?」
キリエとガリスが目を丸くする。そんな2人に見せるように、一丁の銃を取り出し、机に置く。それは回転弾倉式のハンドガンだった。その銃には、豪華な銃の紋章が描かれていた。
「こ、これは……!」
「王家の紋章……ほ、ほんものですの!?」
あの銃の紋章は王家の証のようなものらしい。それを見たキリエとガリスは大慌てだ。キリエは椅子の後ろに身を隠し、ガリスは勢い良く立ち上がって、足をテーブルにぶつけていた。
「はい。私の名はマリー=アン=ウィンチェスター。ウィンチェスター王国の第三王女であり、大神官長でもあります」
「大神官長……どうりであんな強力な神聖魔法を使うわけですわ……」
マリアが銃を懐にしまう。
「これで信用いただけましたか?」
「あ、ああ……。そういうことなら、任せ―――お任せしましょう」
「敬語などはいりません。私はそんなに敬われるほどの事を成した人間ではありませんから」
「わ、わかりましたわ」
「私のことはこれまで通り、気軽にマリアとお呼びください」
ひと悶着あったが、なんとか霧の森へ行くことができそうだ。




