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魔物

村中に響き渡る声で、みんなハッとした。途端に周りがざわつき始める。

「魔物だって?」

「最近各地で増えてきているとは聞いていたがここまで……」

「そんなことより避難しないと!」

「シェルターってどこだっけ!」

「そんなものうちの小さな村にあるわけないだろ!」

みんな、次第に焦りや混乱を表明しだしていた。そんななか、俺は冷静だった。なぜかはわからないけど、ひどく冷静だったのだ。

『魔物か。この時代にも魔族と人族の争いはあるのか』

「違うよホープ。魔物は魔力を取り込みすぎた動物が変異したものなんだよ。言わば天災みたいなものなんだ。だから魔族とかそういうのとは関係ないよ」

『ふーん……そうか』

ホープはなにか腑に落ちない様子だったが、ひとまず納得してくれたようだ。

そして俺は、気がつけば西の森の方へ走り出していた―――


―――うちの村は小高い柵に囲まれている。俺はその柵をジャンプで飛び越える。精霊力を込めてジャンプすれば、10メートルくらいは跳躍が可能だ。

柵の外に着地すると、目の前に黒紫色の体毛をした全長3メートルはあるだろう巨大な熊が2足で立っていた。その目は赤く、ギラギラと輝いていた。

「あれが魔物か……」

俺も魔物をこの眼で見るのは初めてだ。全身から冷や汗が出てきた気がする。それほどまでに恐怖を感じた。

『これが自然発生した魔物か。今のお前に勝てるか?』

ホープが挑戦的な声色で言ってくる。言われるまでもない。

「勝つ!」

魔物の咆哮と共に俺は魔物に向かって駆けた。正面から一閃を試みる。

が、さすがに魔物といったところ。熊は手を突き出し、その鋭く太い爪で剣撃を防いでいた。

俺は一度距離を取る。

「ちっ……さすがに硬いな……」

防御されるか回避されるかは想定していたけど、まさか爪に傷さえ入らないとは思っても見なかった。

『遊んでる暇があるのか?全力でいけ』

「わかってる……!!」

俺はまた正面から突っ込む。すると、今度は熊の方から右手を振り下ろし、鋭い爪で俺を切り裂こうとしてきた。しかし、動作が大きい。俺はギリギリまで引き付けてから横に飛び、それを回避し、すかさず攻撃に移る。

「炎舞・(ほむら)!」

剣に炎を宿す。その炎はただの炎ではない。物質を焼き切る、鋭く研ぎ澄まされた切断炎だ。俺は剣を熊の太い腕に食い込ませた。

だが、腕がすぱっと切れることは無かった。腕の中ほどまでで刃が止まったのだ。骨だ。骨は分厚く、精霊力を込めた切断炎でも一瞬で切り裂くことはできなかったようだ。骨も熱で溶けてきてはいるようだが、一瞬時間がかかる。その隙を熊は逃さなかった。

『ケント!手を放せ!』

熊の左腕が大きな殺意を伴って迫っていた。だが俺は左手で剣を握り直し、熊の腕を蹴って飛びのこうとした。結果、俺の左腕に熊の爪が掠り、俺の二の腕の部分の肉がごっそりと削られた。

「ぐっ……!!」

唇を思い切り噛み、痛みに耐える。口からは血が流れていた。腕からはその比ではないほど多量な血が流れていたが……

『大丈夫かケント!』

「なん・・・とか・・・!!」

気を失ってはいないが、左腕は激痛で動かせないし、今にも倒れそうだ。そんな大きな隙を魔物が逃してくれるわけもなく、俺は死を覚悟した。その瞬間、聞き覚えのある詠唱が聞こえた。

「暴風魔法・エアロシュート!!」

一陣の風が俺の頭上を通り過ぎ、熊は圧縮された空気の衝撃でよろめいていた。その隙に、俺は力を振り絞り、熊と距離を取る。

声のした方を見ると、そこにはビガンがいた。

「ケント!」

ビガンは、俺を一瞥するとビンを一つ(ほう)ってきた。中身には青色の液体が入っている。俺はそれを右手で受け取ると、すぐに蓋を開け、左手にぶっかけた。すると、傷が見る見るうちにふさがった。痛みはまだあるが、左腕は動くようになった。

「一人で無茶をするんじゃない!」

「ごめん……」

「手下を平気で死なせるようなクズに俺はなるつもりは無いからな」

ビガンは俺を怒鳴りつけた。それはすごい剣幕で。でも、それも俺を心配してのことだろう。

「だが、勝算はあるのか?」

「……ある」

ビガンを見た時、俺は一つ試してみたいことを思いついていた。ちょうど、ビガンは魔銃を二つ持ってきていた。来るのが遅かったのは、それらを準備していたからだろう。

「俺を信じてくれるか?」

ビガンは、一瞬考えた後に首を縦に振った。

「じゃあ、まずはあいつを怯ませてくれ。それから、俺に向かって強力なやつを撃ってくれ」

「お前、自分が何を言って―――」

ビガンも途中で気付いたらしい。

「わかった。お前を信じるぞ!」

こんな会話をしている中でも、熊の攻撃は遅いながらも病むことなく襲ってきていた。躱すのは造作もないことなので、問題にはならなかったが。

作戦会議も終了し、俺とビガンがお互いの呼吸を伺い、お互い同時に目で合図を送った。

まず、ビガンが風魔法で動きを一瞬止める。

「暴風魔法・エアロシュート!」

圧縮された風の塊が熊の顔面に命中する。その時には、俺は熊の背後から飛び上がっていた。勝機は一瞬しかない。このタイミングしか……!!

「ビガン!」

「上位魔法・エアロ=シュナイダー!!」

ビガンが詠唱を唱え、魔銃の引き金を引くと蛇のような形をした空気の塊が、うねりながら俺の方へ向かってきた。それを俺は剣で受け止めた。

「炎舞・火風車からの……!!」

風を受けた炎が形を変化させ、炎と風を刃の周りに薄く纏った形になる。それを俺は熊の首に向かって振るった。

「名付けて、風炎舞(ふうえんぶ)炎牙(えんが)だあ!!」

首の分厚い肉が一瞬で焼き切れ、骨を鋭い風の刃が削り取り、熊の首を切断した。

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