魂の救済
そんなことをヒメと言ってると、洞窟の壁の魔導石が縦一列に砕けた。多分、ヒメを振ったときの影響だろう。
「ケントさん! ヒメさんを使うのは控えたほうがいいです。下手をすると洞窟が崩落しかねません」
「わかった」
『なあああああんでえええええええええ!!』
俺はそっとヒメを鞘に戻した。やっと使ってもらったヒメは、悲しい叫びを上げていた。
「多分2つで大丈夫ですわね」
ドラゴンゾンビが怯んでいる隙に、キリエが攻撃するようだ。狙いはドラゴンゾンビの手足だ。ドラゴンゾンビは飛んでいるわけではなく、天井に張り付いているので、手足さえ破壊すれば落ちてくるだろうということだ。
キリエが側面の魔導石の2つに触れる。魔導石は紫と赤に光る。そして、キリエが引き金を引いた。
「ファイア!」
ズキューンという銃声と共に、火の銃弾が、雷を纏って飛んでいく。それはドラゴンゾンビの前足目掛けて飛んでいき、接触と同時に激しく爆発した。ドラゴンゾンビは痛みを訴えるように前足を宙に放り出した。どうやら指を根本から2つほど消し飛ばしたようだった。なかなかの威力だ。
「あと一つ砕けば落ちてくれるかしらね」
さすがにドラゴンと言う高貴そうな存在が、後ろ足だけでぷらぷら揺れるような姿になることはしないだろう。
しかし、ドラゴンゾンビもただで落ちるわけにはいかないとばかりに、肋骨を伸ばして攻撃してきた。俺はホープを手にして、応戦した。
「炎舞・焔!」
ホープの炎が肋骨に食い込む。
が、中程で止まってしまった。
『まずいぞ!』
「くそっ―――!!」
俺は思い切り剣を押し、肋骨の軌道を変えた。間一髪、キリエには当たらなかったが、危うい所だった。
「しっかりしてくださいまし!」
「ごめん!」
しかし、どうしたものか。あの肋骨の質量と速度。速度はさほど問題ではないが、質量のせいで軌道を変えるのも一苦労だ。
『ケントよ。なにやら手をこまねいているようだな』
エクスが声をかけてきた。
「力を貸してくれるか?」
『いいだろう。我の力、再びお主に貸し与えよう』
俺は腰に差している木刀を勢い良く引き抜いた。
「エクスカリバー!」
引き抜くと同時に木刀は刃のある刀になり、腰には鞘が現れた。
「なっ! 木刀が剣になりましたわ!」
後ろでキリエが驚いているが、長々と説明している暇はない。
「さっさとあいつを落とせ!」
「そんなことを言うなら、ちゃんと隙を作ってくださいませ!」
「任せろ! エクスカリバー、第二刀・光飛刃!」
俺は横向きに、ドラゴンゾンビの肋骨目掛けてエクスを投げた。投げられたエクスは三日月状の光り輝く刃となり、肋骨に当たった。肋骨には傷が付き、しかも、衝撃で肋骨の軌道をあらぬ方向へ反らした。さらに、エクスは肋骨から肋骨へ飛んでいき、次々に伸びてくる肋骨を捌いていた。
「す、すごいですわ……」
「エクスさんってこんなこともできたのですね……」
2人がエクスを見て、関心していた。
「関心している暇があったらさっさと落としてくれないか?」
「任せてくださいませ!」
キリエが射撃体制に入る。魔導石に触れ、魔導石が赤と紫に色づく。
「ファイア!」
けたたましい銃声が響き、銃弾がドラゴンゾンビの前足めがけて飛んでいく。
「我らが神よ、我らに仇なす脅威を沈め給え―――」
マリアの詠唱が聞こえてくる。落ちた瞬間を狙うつもりだろう。
だが、その瞬間、光飛刃をすり抜けた肋骨が、キリエ目掛けて飛んできた。俺にこれを防ぐ剣は無い。キリエも、自分が死んだと思っただろう。だが、それは間違いだ。俺には鞘がある。
俺は鞘で肋骨をぶっ叩き、肋骨の軌道を反らした。肋骨は何もない地面に突き刺さった。それと同時に、銃弾が爆発し、ドラゴンゾンビは地上に落ちて来た。後ろ足で引っかかって粘ったりしてこなかったのはありがたかった。俺の精霊力の半分ほどが消費されようとしていたからだ。相変わらず、エクスの力は凄まじいが、燃費がすこぶる悪いな。
「我らに、一時の猶予を与え給え、救いを与え給え……【大聖十字】!」
ドラゴンゾンビの頭上から、突如巨大な十字架が降ってきた。それはドラゴンゾンビの背骨に突き刺さり、動きを止める。さらに、巨大な十字架から、鎖の繋がった小さな十字架が飛び出し、地面に突き刺さる。ドラゴンゾンビは身動きできずに、じたばたしていた。
そこに、あろうことかマリアが歩み寄って行く。
「マリア、危ないぞ!」
「大丈夫です」
マリアの言葉を肯定するかのように、ドラゴンゾンビはおとなしかった。
「魂の救済を、あなたに」
マリアはドラゴンゾンビの口に触れながらやさしげな顔で鼻先にキスをした。
「【魂の鎮魂歌】」
ドラゴンゾンビは淡く光り輝き、付き物が落ちたかのように、ぐったりと力無く倒れた。




