キリエ・ブラックローズ その2
「キリエさん。入ってもよろしいでしょうか」
ドアの向こうから聞こえたのは、マリアの声だった。
「どうぞ」
キリエが返事をすると、部屋の扉がゆっくりと開いた。そして、俺とキリエを一瞥すると、笑顔になった。
「ケントさんを探していたのですけれど、ここにいたのですね。お二人でなんのお話を?」
「お互いの事を知ろうとおも―――」
そこまで言ったところでキリエに口をふさがれた。
「ただの世間話ですわ。ケントさんのこれまでの旅の話などを聞かせてもらってましたの。マリアさんからもお聞きしてもよろしいかしら?」
「ええ。では、ベッドをお借りしますね」
マリアは、キリエの寝床であろうベッドに腰掛けた。俺も一緒に腰掛ける。
「じゃあ、何から聞こうかしら……」
キリエは少し考えたあと、再び口を開いた。
「じゃあ、とりあえず、あなたの実力について聞きたいですわ。ケントと旅をしてきたんでしょう? なら、そこそこは戦えるのですわよね?」
「そうですね……私は攻撃手段をあまり持ち合わせていません。ですが、防御や回復など、補助としての役割を担ってきました。私の魔法は、神の力を借りる神聖魔法ですからね」
「ってことは銃は使わないんですの?」
「一応1丁持ってはいますが、あまり使いませんね」
「苦労したんじゃないんですの? この国、この村は違いますけれど、大体の地域では銃を使わない者は異端とされて、迫害されると聞きますもの」
そういえば、王都の冒険者ギルドでそんなことを言っていた気がするな。
「そうですね。その影響もあって、私は王都で生まれましたが、育てられたのは東の辺境なのです。それは、お父様が虐げられないように考えてくれたものだったのだと今では思います」
キリエが壁に掛けてある時計の方をちらりと見る。時間は10時を回っていた。
「もう寝る時間ですわね。今日は色々聞かせていただいてありがとうございましたわ。お二人とも、ゆっくりおやすみになってくださいませ」
「そうですね。有意義な時間でした。こちらこそ、ありがとうございました」
そう言って、俺の手を引き、部屋を後にする。
「また明日!」
俺は捨て台詞のように挨拶をした。
俺は、キリエの両親が用意してくれた部屋で、マリアに正座させられていた。マリアは椅子に座り、俺を見下ろしている。
「ケントさん。どうして1人で出歩いたりしたんですか?」
「え、暇だったから、キリエと話でもしようかと思って」
なぜかわからないが、マリアは怒っている気がする。なんとなくだけど。
「私が湯浴みを長い間していたのも悪かったとは思いますが、何もなかったからよかったものの、あなたの身に何かあったらどうするんですか。ここはまだまだ未知の領域なんですよ。本当に安全かわかったものじゃないんです。ケントさんも十分に注意してください」
「はい……」
底知れぬ威圧感によって、俺はすっかり萎縮してしまっていた。しかし、ここがそんなに危険な場所には思えないんだけどな……。
「とりあえず、今日のうちは眠りましょう」
そう言って、マリアはベッドに潜り込んだ。
「あれ? マリアも部屋はもらってるはずじゃ?」
「先程の話を聞いていなかったのですか? ここはまだ安全が確保できていないのです。なので、別々の部屋で眠るのはリスクを伴います。すなわち、私はこの部屋で眠ります。わかりましたか?」
「はい……」
マリアは未だに怒っているのか、不思議な威圧感を放っていた。俺は、マリアの言葉に従うしかなく、渋々と一緒のベッドに潜り込み、眠りについた。




