一泊の条件
あれよあれよといううちに、場所と観客、そして立会人も来て、決闘の準備が整った。相手はというと、もちろん俺だった。
「我がブラッドローズ家の家訓に、"殿方を家に招く際は、その強さを身を持って知るべし"とありますの。ケント、あなたの力、見せてもらいますわ!」
決闘場で対峙していたキリエが言う。そういうことなら先に言ってほしかった・・・。まあ、先に言ったところで俺はこの村に来ていたとは思うけど。
『おいおい、対人戦で思い切り精霊力を使うと殺しちまいかねないぞ』
「手加減はするよ。ホープの使用も無しだ。今回は、ブラックとエアロで行く」
俺は腰に提げていたブラックを引き抜き、逆手に持つ。
『ついに俺の出番か! 一発ぶちかましてやろうぜ!』
対するキリエは拳銃を二丁手に持っていた。その拳銃はリボルバーと呼ばれる回転弾倉式の物だったが、グリップの上に大きな玉がついている、変わったものだった。
「あなたの武器はその小さなナイフですの? 先程使っていた剣はどうしましたの?」
「あれを使うとお前を殺してしまいかねないからな」
「あら、随分と舐められたものですわね。それと、私の名前はキリエ・ブラッドローズですわ。お前なんて適当な呼び方は許しませんわよ!」
そういえばさっきもそんなことを言っていたな。女は怒らすと怖いから、次からはキリエと呼ぶことにしよう。
「二人共、用意は良いですか?」
俺たちは同時に頷く。
「では、開始!」
合図と共に、俺は横に駆けた。キリエも俺と同じように駆けていた。どうやら読まれていたようだ。そのままキリエは銃弾を発射してきた。俺は咄嗟に飛び上がり、その銃弾を避けることに成功した。
「甘いですわよ!」
そう思ったのもつかの間、避けたはずの銃弾がUターンして俺へ再び向かってきた。銃弾の速度は早くはないが、追尾されるのは厄介だ。俺は地に足をつけ、ブラックで銃弾を弾いた。いや、正しくは弾くことしかできなかった。俺は銃弾を真っ二つに斬るつもりだったのだが、刃が立たなかったらしく、弾くことしかできなかった。
「普通の銃弾じゃないみたいだな」
「なかなか勘がいいですわね。私の使う銃弾は魔力弾ですわ。魔法と銃撃を合わせた最強の攻撃ですのよ!」
ご丁寧にキリエは説明してくる。最強の攻撃だって?笑わせるね。
俺は再び戻ってきた銃弾を地面に叩き落としてやった。地面に当たった銃弾はもう追尾してくることはなかった。しかし、銃弾が動かなくなった瞬間、キリエは俺の死角から銃撃を行ってきた。しかも、手に持っているのは銃口が2つ付いたショットガンとなっていた。グリップの上には相変わらず丸い宝石のようなものがついていた。俺に向かって、十数発の散弾が降り注ぐ。
「まさかこんなに早く使うことになるなんてな」
しかし、その銃弾はすべて、俺の体に突き刺さることはなく、あらぬ方向へそれていった。
「そんなばかな・・・!」
俺の体の表面には、空気の膜が薄く張られていた。
「さっき、魔力弾について教えてくれたよな。お礼に教えてあげるよ。風ってどうやって起こるか知ってるか? 風は空気が動くことで発生するんだ。そして、俺の体の表面には薄い空気の膜が張られている。その空気の膜は銃弾を優しくそらす」
「なるほど。それがあなた方の力ということですわね」
「まだまだこんなもんじゃないさ。行くぞ、ブラック!」
『ぶちかましてやれ!』
黒魔法は、実に地味な効果の魔法である。黒魔法の効果は他の魔法の効果を強化すること。しかも、攻撃的に、爆発的に。
「黒風魔・黒風!」
俺がブラックを構え、呪文を唱えると、まっすぐキリエに向かって、空気の弾が飛んでいった。もし、人に当たったなら、その人は突風によって1kmほどふき飛ばされただろう。しかし、キリエは精霊魔法の強大さを感じ取ったのか、右に飛び、俺の攻撃を回避していた。キリエが先程まで立っていた場所は地面が少し抉れ、俺の正面にある仮設置された壁はものの見事に吹き飛んでいた。観客に少し被害が出ていた。
「あ・・・ごめん、ちょっとやりすぎたかも」
「恐ろしい魔法ですわね・・・。でも、これで終わりですわよ」
いつの間にか、キリエは寝転がった姿勢でライフルと思わしき銃を構えていた。
「エアロ!」
鋭い銃声が響き、銃弾が超高速で俺に向かって飛んでくる。俺は咄嗟にエアロの風でさっきのショットガンの散弾をかき集め、向かってくる銃弾に向かって全弾ぶつけた。そのせいか、キリエの放った銃弾は威力を失い、簡単に風でそらされた。
俺はすかさずその銃弾を風で持ち上げ、キリエに狙いを定めた。
「俺の勝ちだな」
「そう・・・ですわね・・・」
キリエは負けを認めたように銃の引き金から手を離した。




