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勝負!

開始の合図とともに、俺は左に駆けた。

昔から、ビガンくんよりも俺のほうが早さは上だった。思ったとおり、ビガンくんが銃をホルスターから抜くよりも早く、俺はビガンくんの側面まで回り込んでいた。

しかし、俺の武器は剣だ。嫌でも接近しなければ攻撃を当てることは叶わない。それでも、ビガンくんは俺のスピードに焦ったのか、慌てたように引き金を引いた。

放たれたゴム弾が、俺に向かって飛んでくる。だが、俺はビガンくんを中心に時計回りに周りを駆けていたため、ゴム弾は俺のすぐ後ろを通過していっていた。

だが、さすがのビガンくんだ。四発目は俺の軌道を読んで、偏差撃ちで狙ってきた。

俺はすぐさま木刀を抜刀し、その勢いのままゴム弾を弾いた。まさか弾かれるとは思っていなかったのだろう。ビガンくんの動きが一瞬止まった。それを俺は見逃さず、ビガンくんの方へ真っ直ぐに駆けた。我に返ったビガンくんが引き金を引くのと同時に、俺は高くジャンプした。

駆けていた勢いがあったため、ビガンくんの頭上を優に超えて、ビガンくんとの間に少し空間がある場所に着地してしまった。

俺が空中にいる間、ビガンくんは2発のゴム弾を俺に向かって撃ってきていた。ビガンくんの銃の装填数は6発のはずだ。再装填の時間は与えるつもりはない。俺は追撃しようとすぐさま振り返った。だが、今度は俺が驚く番だった。振り向いた先にいたビガンくんは、魔銃を抜き放ち、銃口をこちらに向けていた。


彼は、昔のガキ大将のままではない。今は誇りを持った、崇高な性格をしている。

だからわかる。彼が負けるのが嫌で魔銃を抜いたのではないことが。彼は認めたんだ。俺と、剣で戦う者の強さというものを。

「風魔法―――」

ビガンくんが魔法を詠唱する。すると、魔銃についている魔光石が光を発した。

「ホープ!」

『いいぜ、やってやろうじゃねえか!』

俺は反射的にホープを握った。その瞬間、ホープを覆っていたトイレットペーパーが燃え、剣身があらわになる。

「エアシュート!」

炎舞(えんぶ)火風車(かざぐるま)!」

ビガンくんの銃から、魔力を帯びた風の塊が放出される。俺はホープを抜いた勢いのまま、円を描くように炎を纏った剣を振るった。風の塊は剣に直撃し、剣の炎と一体化するかのように剣を覆い、剣の炎はそれまでよりも激しく、大きく燃え上がった。

俺は腕を振るった遠心力を利用して、勢いのまま下から上へ剣を振る。そして精霊力を込めて、炎を飛ばす。狙いはビガンくんの横だ。

さすがに直撃してしまうと、ビガンくんが焼け死んでしまいかねない。

「うらあああああ!!」

剣から放たれた炎はビガンくんの右横を通過していった。その炎は天に上っていき、霧散するように消失した。

さすがのビガンくんも度肝を抜かれたようで、呆然としていた。俺は彼に歩いて近づき、木刀で額をこつんと突いた。


「し、勝者!キリツグ・ケント!!」

審判が割れに返ったように叫んだ。試合を見物していた周りの群衆から、歓声とどよめきが沸いた。

「すごいぞケントー!」

「まさかあのビガンが……」

「2人ともすごかったよー!」

「こんな試合は大人同士でもなかなかお目にかかれないんじゃないか?」

俺はビガンくんに手を差し伸べる。

「俺の負けだな」

ビガンくんは俺の手を取り、立ち上がる。

「本当はジャンプですぐ後ろに着地するはずだったんだけどね」

「もしそれをしていたら殴ってやったのにな」

お互いに、ふふふと笑い合う。

「ところでビガンくん」

「ん?」

「髪の毛燃えてるけど大丈夫?」

ビガンくんの髪の毛は、左側がちりちりと少し燃えていた。火風車がすこし掠っていたようだ。

「うそだろ!!みず!水をかけてくれー!!!」

ビガンくんは大慌てで審判をやっていた人の方へ走っていった。すると、係員の人がバケツに汲んだ水をバシャアとビガンくんにぶっかけた。

どんなことがあってもいいように、事前準備を怠っていなかったようだ。

毎年、こんなものいるのか?と思うくらいの入念な準備をしているが、今回のことでちゃんと必要なことだったんだなと再確認した。

周りからは少し笑い声が聞こえた。普段凛とした態度で人と接しているところしか見せないからか、ビガンくんのこういう姿は珍しかったのだろう。俺も、失礼だけど少し笑ってしまった。

「そうだ。ケント!」

水浸しになったビガンくんが声をかけてきた。崩れた髪型をかきあげてオールバックのようにしている。その髪型もすごく似合っていた。何をしてもかっこいいのはずるいよな。

「これからはくん付けは無しにしろ。俺もお前のことを侮らない」

突然のことでびっくりしてしまった。でも、俺も元気よく返した。

「わかった。いい勝負だった!ビガン!」

お互いに拳を突き出す。距離が離れているので突き合わせることはできないが、それでも、お互いを称えあうには十分だった。

そんな中、村中に響き渡るように、鐘の音がけたたましく響いた。

「魔物だー!西の森からだー!」

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