黒の剣
マリアにつれて来られたのは、俺達が国のお尋ね者になっていたときに匿ってくれた、あの秘密基地のような地下室であった。
「ここなら人もいませんし、ゆっくり話ができるでしょう。ジン」
マリアが言うと、ジンは懐から黒いナイフを取り出した。俺は、それに見覚えがあった
「これは……」
「そうです。魔剣です」
「ということは……」
「はい。魔剣の皆様との会話は、私共にも聞こえておりました」
「そういうことなら早く言ってくれればよかったのに」
「アン様がケント様を驚かせたいということでしたので、私から言うべきではないと思いまして」
「ジン?」
マリアはジンに厳しい視線を投げかける。それを意に介さぬ様子でジンは微笑んでいた。
この男、やはり只者じゃないな。
「触ってもいいか?」
「どうぞ」
俺はそっとジンの持つ黒の剣に触れた。その瞬間、俺の魂が一際大きく鼓動した。そして、無邪気そうな男の子の声が聞こえてきた。
『よう! 俺の名前はブラック、ブラック・キッドだ!』
『あら、この前はシーフと言っていませんでしたか?』
『うっせえぞホワイト! いつのこと言ってやがるんだ! 俺のこの名前はジンと出会ったときから同じだぜ!』
『かなり最近のようですね。私達天使にとって、100年なんて一瞬のようなものですから』
声を発した途端、ホワイトがつっかかってきた。どうやらこの二人にはなにやら確執があるようだ。
「二人共、昔なにかあったの?」
『あー……違うんだ。あれは属性的なことなんだよ』
「属性?」
『黒のは黒魔法を司る。白のは白魔法を司る。この2つの魔法は相反するものなのだ。言わば犬猿の仲といったところか』
『ま、そういうことだ! ホワイトのやつはお前じゃなくてその女の方を気に入ってるみたいだから、俺はお前に付くよ』
「でも、これはジンが持ってたほうが良いんじゃないか?」
『そんなわけあるか!』
ブラックがすごい勢いで反論する。
『だってジンのやつ、使えるくせに黒魔法は殆ど使わないんだぜ? 俺を使うのは鉛筆削ったり、果物切ったり・・・そんなの普通のナイフでやれってんだよ!』
「ははは。言われてしまいましたね」
ジンは少しバツの悪そうな表情だが、反省はしてなさそうだった。
「ですが、使う機会が無かったという方が正しいですよ。私は普段ここで情報収集をしているだけですからね。前線に立って戦うことは殆どないのです。暗黒魔法の類なら使っていたのですが・・・」
『はん! あんなコスい魔法嫌いだね! 俺は黒魔法でどっかんばっかんするのが好きなんだよ!』
「一応暗黒魔法は黒魔法の上位に位置する魔法なのですがね・・・」
マリアが少し呆れ気味に言う。
『ということで、俺はお前に付くぜ! お前の名前も教えてくれよ!』
「ケントだ」
『ケントか! いい名前だな! これからよろしくな!』
俺はジンから黒の剣を譲り受けた。
「では、ケントさん。これに魔力をお願いします」
マリアが取り出したのは魔導石であった。前にリーエンにあげた時のように、魔力を保存したものをジンにも渡したいのだろう。
俺はブラックを握り、その刃先を魔導石に当てた。魔導石はみるみるうちに黒く染まり、覗き込むものを引き込んで離さないような漆黒色になった。
「ジン、少しかがんでくれる?」
「はい」
ジンはマリアに言われたとおりに、片膝を付いて屈んだ。マリアはネックレスのように紐を通した魔導石をジンの首にかけた。
「私はここから去りますが、ここでの情勢把握と、サリーお姉さまの助力をお願いしますね」
「はっ、かしこまりました」
ジンはマリアに一礼した後、すっと立ち上がり、元の位置に戻った。
ん?マリアがここを去るとか言ってなかったか?




