模擬試合
俺はまた広場に来ていた。腰には御神体の木刀を、背中にはぐるぐる巻きのホープを携えている。父さんと母さんも一緒だ。広場は先程と違い、舞台が退けられてその周りはぽかんと人混みの空間が空いていた。人はそれなりにいるが、そこだけは人が一人もいなかった。
「では、これから成人式恒例の、模擬試合を始めます。相手が決まった人から中央に入ってください」
どこからともなく、声が聞こえた。風魔法で広場全域に聞こえるようにしているのだろう。
早速相手の決まった者がいたようで、高らかにはじめの合図が聞こえる。今回は模擬試合ということで、ちゃんとした審判がいたりする。ルールは、相手の攻撃が一撃でも体にあたれば敗北という、模擬試合らしい、単純明快なルールである。使用する武器の種類は定められていないが、だいたいの人は実銃もしくは魔銃を使う。これはお国柄そうなってしまっているというのが大きいだろう。
「もう試合を申し込む相手は決まってるのか?」
もちろん決まっている。俺の相手は、一人しかいない。
「もちろん」
「じゃあ探してこい。俺達は先に広場の中央で待ってるぞ」
「うん!」
広場にはたくさんの人が集まっていた。といっても、うちの村はそこまで大きいわけでもないから、たかが知れているけれど。俺が目当ての人物を探していると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「ビガンさん。僕とやりませんか」
「私とやってください!」
私も俺もと、一人に群がっている男女を発見する。その中央には、見知った顔があった。
「すまないな。俺はある男を待っているんだ」
そう言って、ブロンドの短髪に蒼い瞳を携えた、すらりとした体系の男はみんなの誘いを断っていた。
僕はそこに歩み寄った。
「ビガンくん」
「ケント。待っていたぞ」
ビガンくんは俺をまっすぐ見据えて言った。
ビガンくんは、昔は少し小太りのガキ大将といった感じの印象だったのだけれど、数年でしっかりとしたプライドを持った貴族の好青年へと成長していた。俺が剣を握り、洞窟で修行に明け暮れていたのと同様に、彼も独自に成長していたということだ。
「良い顔をするようになったな。ケント」
「ビガンくんも、ガキ大将はやめたんだね」
「昔の話を掘り返すなよ。今の俺はこれだ」
ビガンくんが胸を親指で指しながら言う。
「じゃあ行こうか」
「ああ」
僕とビガンくんは、連れ添って広場の中央へ向かった―――
―――前にやっていた試合が終わり、僕とビガンくんの番になる。
中央まで行き、向かい合うと、簡単な紹介が行われた。
「領主様のご子息、ガンツ=ビガン!対するは、鍛冶屋の息子、キリツグ・ケント!」
ビガンくんは腰に二つホルスターを提げていた。片方は実銃、片方は魔銃のようだった。
実銃は、実際に鉄の弾を魔力で飛ばすものだけど、今回は模擬試合だから殺傷力の弱いゴム弾を使用するようになっているはずだ。魔銃は、その名の通り魔法を撃つためのものだ。
「用意は良いですか?」
審判が問いかけると、ビガンくんは手を上げて審判を制した。
「ケント。お前の武器はその木刀か?」
「そうだよ」
「剣と銃ではハンデがあるんじゃないか?」
「そう思うのならそうかもしれないね」
「だが、俺は銃しか使えない。だから、俺は魔銃を使わないで戦おう。もし、魔銃を使うことがあれば、俺の負けで良い」
「じゃあ、俺も木刀だけで戦うよ。背中の剣は真剣だからあぶないしね」
そう言うと、ビガンくんが頷いた。
「いいぞ」
ビガンくんが審判に合図を送った。
「では、模擬試合―――はじめ!」