マグ=ジン
「ところで、なんで俺のこと知ってたんだ?」
俺たちは王都の西の草原に着地し、一息ついていた。もう少し西の方には森が広がっていた。その森はなぜか霧が立ち込めていた。ここから王都の方を見ると、少し寂れた地区もあることがわかる。
『僕は風だからね。風はどこにでも吹いて、いろんな話を運んできてくれるんだ』
「へえー」
これはエアロには隠し事はできなさそうだな。俺は特にする気は無いけど。
「逃げてきたのはいいけど、これからどうしようかな」
『マリアは手助けしてほしいと言っていたな』
『私もマリアのことは気に入ってるから、手助けしたいなー』
『ヒメ、あんまりそういうことを言うものじゃないよ』
ミコトがヒメを窘めた。
『直接的に精霊が人の行動を決定しちゃいけない。僕たちはあくまで観測者、眺めているだけなんだから。そんなことをしたら、悪霊と何ら変わらないよ』
『ミコトは固いなー』
『これが普通なんだよ』
確かに、俺もマリアに協力すると言った手前、できれば手助けしたい。でも、そのためには連絡する手段が必要だ。それをどうにかしないと、手助けなんてできない。
そんなことを考えていると、急に声をかけられた。ひどく落ち着いた優しげな声だった。
「君がケントくんかな?」
後ろを見ると、初老の男性が立っていた。茶髪で髭も生えておらず、ぱっと見若そうに見えるが、顔のところどころには皺が目立っていた。
接近に気づけなかったのは、敵意を全く感じなかったからだろう。
「そうだけど、あんたは?」
「私の名はマグ=ジン。アン様の執事をしている者です。訳あって今は王城にはいませんが」
俺は立ち上がり、マグ=ジンを見据えた。かなり背が高く、俺の視線の位置にはお腹があるほどだった。
「執事・・・もしかして、マリアと連絡とか取ってたりする?」
「はい、もちろんでございます。アン様に、あなた様の力になるようにと申しつけられております」
「マリアと連絡を取りたいんだけど、できるかな? それとお金も稼げれば嬉しい」
マリアのこともあるけど、カエリアに依頼されたこともある。両方できれば御の字だった。
「アン様とはよく文通させていただいていますよ。あなた方の事もよく聞いておりますので、ご安心ください。まずは私の今住んでいる家へ案内いたしますので、ご同行願えますか?」
俺は「わかった」と言い、マグ=ジンについて行った。
マグ=ジンは森の中を進んでいき、一か所で足を止めた。
「ここです」
マグ=ジンが手に持ったスイッチを押すと、目の前の地面がガコンと音を鳴らし、斜めになって階段が現れた。
『『「なんだこれ!」』』
俺とヒメとエアロが同時に声を上げる。まあ俺以外の声はマグ=ジンには聞こえてないのだが。
「どうぞお上がり下さい」
『下がるけどな』
マグ=ジンはフフフと愉快そうに笑いながら先導してくれた。
中は土魔法で掘り、固められた洞窟のようになっていた。しばらく下った後、本棚やテーブル、キッチンにトイレまである部屋と呼ぶべき場所に出た。簡素な風呂まで付いていた。
「ここは・・・」
「私の暮らしている部屋です。少し簡素なものが多いですが、ご容赦ください」
「土魔法で作ったの?」
「ええ。数年前にアン様の要望で私が秘密裏に手配しました。いつか使う日が来るだろうとアン様はおっしゃっていましたが、私としてはできれば使うときは無い方が良いと思っていましたが・・・」
マグ=ジンは不安とうれしさが入り混じったような顔をした。
「それで、マグ=ジン・・・さんは―――」
「ジンとお呼びください。アン様からはお爺と呼ばれていますので、そちらでも」
俺がテーブルの周りに置かれている椅子に腰かけながら口を開くと、ジンが口をはさんできた。なにか拘りでもあるのだろうか。
「じゃあ、ジン。ジンは、どうやって外と連絡を取ってるの?」
「それはですね・・・」
ジンが口を開くと同時に、俺たちが通ってきた道から見知った顔が首をひょっこりと出し、声をかけてきた。
「ジンさん」
「おや、ダニエルくん。今日はあなたが来ましたか」
「首尾は上々の様で何よりです」
それは俺を晩餐の会場まで導いてくれたローチだった。
ローチは、手紙のようなものをジンに渡した。受け取った手紙を俺に見せながらジンが言う。
「こうやって文通しているのですよ。今回の手紙はあなた方にも見せてよい物でしょう」
そう言って、ジンが手紙をテーブルに広げた。
お爺へ
ケントさんとは合流できましたか?
できているならば、できるだけの助力をしてあげてください。彼は銃を使えませんが、我が国の精鋭をも凌ぐ戦闘力の持ち主です。期待していてください。
さて、私の方の状況ですが、あまり芳しくありません。ケントさんが悪魔を呼び寄せたという疑いを受けた結果、彼を手厚くに迎えた私にも嫌疑がかかっています。もちろん事情を知っている教会関係者は反論してくれていますが、いつまで持つかわかりません。最終判断はケントさんに一任しますが、私を助けてくれるのならば早急に王城へ戻ってきてください。
ジンが手紙を見ながら頷く。
「ケント様、どうなされますか?」
俺の気持ちは既に決まっていた。
「マリアを助けに行く」




