想い
「ケントさん!」
私は仰向けに倒れるケントさんの元に駆け寄りました。
「ゲハハハハハハ! ただでは死なん! お前も道連れよ!」
悪魔が捨て台詞と共に消えていきます。
そんな悪魔のことより、今はケントさんです。ケントさんは、胸に大きな風穴が空いていて、今にも死んでしまいそうでした。普通の人なら即死していたでしょう。ケントさんの頑丈さを呪いたくも、喜ばしいとも思いました。
しかし、私にこの傷を癒やすことができるのでしょうか。いえ、やるしかないのです。やらなければ、私が諦めてしまえば、ケントさんは死んでしまうのです。
『大丈夫よ、マリア!』
「ホワイトさん……?」
不意にホワイトさんが声をかけてきました。
『私が力を貸してあげる』
優しい声色でホワイトさんは言いました。
握ったホワイトさんから膨大な魔力を感じます。これならできるかもしれません。
『私に続いて唱えるのよ』
私は頷きます。
『天におわす我が神よ』
「天におわす我が神よ」
『我が想いを聞き届けたまえ』
「我が想いを聞き届けたまえ」
魔力が集まってくるのを感じます。それもすごい量が。これを本当に私が扱えるのでしょうか。いえ、扱わなければ、ケントさんは死んでしまうでしょう。絶対に成功させます。
私はホワイトさんを床に置きました。
『え、ちょ! なにしてるのよ!』
「この者を救い給え、我が想いを叶え給え、導き給え、戻し給え、許し給え、救い給え・・・」
私は両の掌をケントさんに向け、唱えました。
「偉大なる神の祝福」
すると、ケントさんの傷はみるみる塞がっていきました。
完全に塞がったのを確認すると、私は急いでケントさんの胸に耳を当て、心臓の鼓動を確認しました。トクン、トクンと静かに脈動する音が聞こえました。
ホッと胸をなでおろすと、気が抜けたのか、一気にけだるさが襲い掛かってきました。その気だるさに耐えられず、思わず仰向けに倒れてしまいました。
『ちょっと! どうして最後、私を放したのよ!』
ホワイトさんはご立腹のようでした。それもそのはずでしょう。私は自分からホワイトさんから手を放したのですから。
「ダメな気がしたからです。誰かに手伝ってもらって、相応量の魔力を得たところで、神様は奇跡を起こしてはくださらないと、心の片隅で思ってしまったからです。神聖魔法は想いの強さ、方向性で効果が変わります。そんな迷いのある心では、奇跡なんて起きるはずがないのです。私たちの信仰する神は、一途に想いを貫いた者にしか答えてくれないと思ったのです」
『あなたって人は・・・』
私が仰向けのまま上を見ると、教壇の方から、神官が走ってくるのが見えました。
「マリー様! 大丈夫ですか!」
「サニア、あの方は?」
「命に別状はありません」
「そうですか・・・」
私はホッと胸をなでおろします。ケントさんほどではなくとも、あの方も心配していましたから。
「ケントさん・・・そこの方を寝室に寝かせてくださいますか?」
「わかりました。すぐに戻ってきてマリー様も寝室に運びます! おとなしくしててくださいね!」
「わかりました」
サニアがケントさんを抱えて小走りで去っていきました。サニアとは昔からの付き合いですが、本当に私のことをよくわかっていますね。ですが、いつもならまだしも、今回は本当に動けないので、その心配はしなくてよかったんですけどね。
今はとりあえず眠りたい気分です。
『あなたのことほんとに気に入ったわ。私、あなたに付いて行ってあげる!』
目を閉じ、意識が朦朧としてきたところに、ホワイトさんの声が聞こえた気がしました。




