ホワイトの試験
『なに我儘言ってるんだよ。俺たちは次の使い手が現れたらそいつに付いていくって約束したはずだろ』
『でも気に入らないのよ。隣にいる聖女にならついて行ってもいいわよ』
「マリアに?」
『そうよ。さっさとその娘に握らせなさい』
俺はマリアに剣に触るように促した。
マリアは俺の指示に従い、剣の柄を握った。
『ああ~』
剣の精霊が甘美な声を上げる。
『いいわね~。あなた、いえ、聖女マリア。あなたになら私も付いて行ってもいいわよ。申し遅れたわね。私の名前はホワイト・エンジェル。ホワイトって呼んでね』
「ホワイトさん・・・ですか。ケントさん、私が抜いてみても良いでしょうか?」
「いいよ。ホワイトもそれを望んでるみたいだしね」
マリアが両手で柄を握り、ホワイトを引き抜いた。瞬間、剣身が露になる。それは細く、先端が尖っていた。父さんに聞いた話によると、北の国ではレイピアと呼ばれているらしい。
「本に描いてた通りだな。白の剣、ホワイトローズ」
『あの人が付けた名前ね。ご丁寧に本に記していたなんて、マメね』
『お前は昔から我儘な奴だったな』
『大きなお世話よ!』
これからの旅はなんだか騒がしくなりそうだ。
『さて、私、付いて行っても良いとは言ったけど、試験はさせてもらうわよ。今、不浄なる者がこの神聖な教会内に入り込もうとしているわ。それを退治しなさい。もちろん、二人でね』
「不浄なる者・・・?」
ホワイトが言った瞬間、表の方で悲鳴が上がった。
俺たちは急いで広間に向かった。
そこでは、信者と思われる人が腹を刺されていた。刺したのは同じく信者と思しき人だ。刺された人からは血がどくどくとあふれ出ている。
「早くあの方の治療を!」
マリアが声を張り上げる。あっけにとられていた神官は我に返り、負傷している人にかけよる。その神官を狙って、加害者の人が拳を振り上げた。俺は咄嗟にその間に割り込み、鞘を盾のように使い、拳を受け止めていた。俺は押されたりしなかったが、ただの人間とは思えないほどの力だった。
「お前、何者だ?」
加害者の男はニヤリと笑い、後ろに飛びのき、距離を取った。俺の殺気にあてられてか?いや、きっと違う。あの男の笑い方は、スミスの町で見たことがある。
「もしかして、悪魔か・・・?」
男は、人間が発するものとは思えない、悍ましい笑い声をあげた。
「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! よくもよくも見破ってくれたなあ! だが、大神官長をおびき出すことには成功したみたいだな!」
狙いはマリアか。
「マリア下がれ! あいつの狙いはどうやらお前みたいだ」
「いえ、私が囮になり、奴の隙を作ります。悪魔にたやすくやられる私ではありませんよ」
「そんな隙は与えねえよ」
悪魔が一瞬のうちに俺の隣まで移動していた。
「集中!」
悪魔はナイフを隠し持っていたようで、それをマリアに突き立てようとする。マリアはさすがに反応できていないようだった。俺は集中を使い、悪魔の振り上げた手をホープで切断した。
切れた腕から血がどぼどぼと流れ落ちる。正直、悪魔に乗っ取られているとはいえ、人を斬るのは初めてで、少し震えている。だけど、ここでそんな隙を見せてはいけない。俺はホープの柄頭で太ももを叩き、震えを止めた。
「よくもよくも俺の腕を切ってくれたな人間んんんんんん!!!」
狂ったように笑いながら悪魔が言う。これが悪魔か・・・不気味以外のなにものでもないな。
そして、乗っ取っていた人の肉が裂け、頭が割れ、中から飛び出すように、全長二メートルほどの角と尻尾のある赤紫色の巨漢へと姿を変えた。
「遅かったようですね・・・」
マリアが悔しそうに言う。
「悪魔の乗っ取りは、時間が経てば経つほど取り返しのつかない事態になります。最初は思考を悪い方向に寄せるだけですが、そのうち意識を完全に乗っ取り、果てには今のような悪魔の姿に変貌させるのです」
「じゃあ、俺が斬ったのは人間じゃないんだな」
「そうです。もう手遅れでした・・・」
「それだけ分かれば、俺は思い切り戦える!」
俺は悪魔へ猛進していった。悪魔が鋭く長い爪を高く掲げる。いつの間にか俺が切断した腕は治っているようだった。
「人間如きが俺様に勝てると思うのか!」
「勝つさ!」
体を捻り、振り下ろされた腕を避ける。そして捻った体の勢いのまま悪魔の腕を切り裂いた。悪魔の肉は硬く、切断することができないと判断した為、剣を滑らせて傷をつけることにしたのだ。
「生意気な人間だ」
悪魔がもう一方の腕を振り下ろし、巨大な爪が俺に襲い掛かる。俺はそれを何とか凌ぎ、距離を取る。悪魔の腕を見てみると、さっき付けた傷がもう塞がろうとしていた。
「化け物だな」
「ケントさん! これを使ってください!」
マリアが叫び、何かを俺の方に投げてきた。受け取ってみると、それはマリアのロザリオだった。ロザリオには長いチェーンが付いている。
「それには聖印の力が宿っています。それを剣に巻き付けてください。悪魔には有効なはずです!」
「わかった!」
俺は受け取ったロザリオを剣に巻き付けた。なんだか剣身が光っているように見えた。
俺は再び悪魔に切りかかった。悪魔は当然のように爪で俺を貫こうとしてくる。それを防ぐ為に爪に剣を当てると、触れた箇所の爪が融解し、爪を切断した。
「貴様! 何をした!」
俺はたじろいでいる悪魔の隙を突き、一気に距離を詰め、首を切断した。
「この俺が人間如きに・・・!!」
首が胴体と離れても悪魔は喋っていた。心底化け物だなと思った。
「ありがとうマリア!」
「ケントさん! まだです!」
俺が勝ったと思い、後ろを振り返ると、俺の腹部には巨大な爪が突き刺さっていた。
俺は口から血を吹き出し、悪魔の体に押し倒されるようにぶっ倒れた。




