閑話:夜這い?
今日は色んなことがありました。いえ、王都に向かい始めてから驚きの連続だったのですけれど・・・。その中でも今日は怒涛でした。街に入るときには、たまたま門番をやっていたバンさんに見つかってしまって、いきなり王城に連れてこられるし、その後事情を話してケントさんたちを釈放してもらうのも姉様にぐだぐだ言われるし、その後の準備も大変でしたし、本当に疲れました。
そう思って、ベッドに横になっているのですけれど・・・。
「眠れませんね」
久々のふわふわのベッドで慣れないのでしょうか。それとも・・・。
不意にケントさんの顔が頭をよぎります。ケントさんは私の中で思った以上に大きい存在になっていたのでしょうか。それとも一人で寝るのが久々なので寂しいのでしょうか。私にはわかりません。ですが、明日も忙しくなるでしょう。一刻も早く眠りにつかなくてはなりません。私は行動することにしました。
部屋の扉を開けると、警備をしてくれていたシュルクがいました。
「アン様、どちらへ?」
「ケントさんはどちらの部屋にお通ししましたか?」
「あの者のところへ行くのですか? こんな夜更けに?」
シュルクが怪訝そうに眉をしかめます。それもそのはず、こんな夜更けに女が男の部屋に行くなど、良い意味で捉えられることはほとんどないでしょう。
「眠れないのです」
「睡眠薬をお持ちしましょうか?」
「いえ、ケントさんと一緒ならきっと寝付けると思います。心配しないでください」
シュルクは嫌そうにこれでもかと顔をゆがめた後、諦めたように息を吐きました。
「わかりました。では、今夜は私がケント様の部屋の警護に当たります。道すがらのご案内も私が行います。よろしいですね?」
「はい。ありがとうございます」
シュルクに部屋まで案内してもらいました。扉の前には、ダニエルがいて、警備をしてくれているようでした。
「ダニエル、お前は休んでいいぞ。ここは俺が代わる」
「え、アン様?」
「深くは聞くな」
「は、はい。では、先に休ませてもらいます」
「おやすみなさい。ダニエル」
私が挨拶すると、ダニエルは一礼して去っていきました。
「守りはお任せください」
「ありがとうシュルク」
シュルクにお礼を言い、中に入ります。
中はキングサイズの大きなベッドが壁の中央にあり、反対側にテーブルがありました。床には触り心地の良い絨毯が敷いてあります。客室は王城の中でも、王族の寝室の次に豪華な部屋になっているのです。
ベッドの上で薄いかけ布団を被ってケントさんが眠っていました。ベッドの脇には十字の鞘が置かれています。
私はベッドに腰かけ、ケントさんの寝顔を拝見しました。一見健やかな寝顔に見えますが、いつもとはちょっと違うような気がします。
『マリアか』
「ホープさん」
私はケントさんを起こさないように静かな声で話します。
『眠れないのか?』
「はい。お恥ずかしながら」
『そうか。実は、ケントも同じようだったんだ。ベッドの寝心地が良すぎて眠れなかっただけかもしれないけどな』
ケントさんも同じ・・・少し嬉しく感じてしまいました。
「もう少し質素な方が良かったでしょうか。この王城の装飾の中では地味な方ではあるのですが」
『まあそうだろうね。昔から人間は飾り立てるのが好きだしね』
『横で眠るなら好きにすればいい。俺たちは何も言わないでおいてやる』
「ありがとうございます」
『俺たちは精霊。精霊は、人間の思いで生まれた。だからか、基本的には人間が好きなんだ。精霊はどこにでもいて、全てを聞いて、見ているが、人間に害をなそうとするやつはいない。安心してくれ』
私はケントさんの横に潜り込みました。ベッドが大きいので、密着するほど近くはないですが、同じ布団で眠るというのは、少しドキドキしますね。
目を閉じると、ケントさんのぬくもりだけが感じられて、なんだか安心できました。
「マリア・・・」
ケントさんの寝言が聞こえます。夢でも私と旅をしているのでしょうか。私も、いつまでもそうしていたいと思っていました。しかし、そうもいかなくなりました。これからの毎日は忙しくなります。でも、落ち着いたらまた一緒に旅をしたいですね。
そんなことを考えながらうとうとし始めたころ、不意に抱き寄せられました。目を開けてみると、ケントさんの顔が間近にありました。
「ケントさん・・・?」
すこし驚きましたが、それ以上に、幸福感と安心感がありました。
私は再び瞼を落とします。今日は人生で一番良い眠りになりそうです。




