マリー=アン=ウィンチェスター
「まず、私の名前はマリー=アン=ウィンチェスターと言います。これまで名乗っていたマリアというのは偽名です。申し訳ありませんでした」
マリアがぺこりと頭を深く下げる。
「私はこのウィンチェスター王国の第三王女ということになっています。王位継承争いが嫌だったので、東の方に疎開していましたが、この度、戻ってきました。その理由としては、大地の森で一度ケントさんは目撃していると思いますが、悪魔の活動が活発になってきているからです」
「悪魔ってあの神話とかに出てくるやつらかい?」
「そうです。その悪魔です」
カエリアは驚いた顔をする。そりゃそうだろう。あのおとぎ話に出てくるものが現実にいるというのは、簡単に受け入れられるものではない。
それでも、カエリアはその言葉を呑み込んだようだった。
「でもさ、その悪魔とマリ・・・マリー王女様が戻ってくるのと、何の関係があるのさ」
確かに、それは俺も気になっていたところだ。
「それは、私が大神官長だからです」
「大神官長だって!?」
カエリアが驚きの声を上げる。
「大神官長?」
「ケントくんは知らないんだね。大神官長というのは、教会に属する神官のまとめ役といったところだったかな。とにかく偉い人だよ!」
「まあ、だいたいそうです。私の他に、枢機卿官という役職の方が事務の方の最高責任者となっています。私は実務の方の最高責任者といったところですね」
なるほど。つまりはマリアは教会のめっちゃ偉い人だったってことか。
『ケント、本当にわかってるの?』
『こいつは興味の無いことにはとことん無頓着だからな・・・』
『私は全く分からなかったよ!』
『ヒメは無い胸を張って何言ってるの・・・』
『み、見た事ない癖に何言ってるの! 張るくらいには胸はあるよ!』
「王女様が帰ってきた理由はわかったよ。ありがとう・・・ございます」
ホープたちが口をはさんでくるが、聞こえていないカエリアが意に介すはずもなく、ぎこちない敬語で続きを促す。
すると、マリアは居心地が悪そうな顔をした。
「えっと、カエリアさん。これまで通りの話し方で構いませんよ。なんだか落ち着かないので」
「ん? 姫様がいいのなら、以前通りマリアちゃんって呼ぶことにするよ! 私も話しにくかったからね。ありがとね」
「ケントさん・・・は遠慮とかしないですよね」
『こいつに忖度とかを期待するのは間違いだ』
なんかすごく失礼なことを言われてる気がする・・・。
マリアが気を取り直すようにコホンと咳払いをした。
「ということで、お二人にはいろいろと協力をお願いすると思うのです。数少ない私の協力者として、助力くださると助かるのですが・・・」
親衛隊の三人がこちらを見る。そのうち二人は睨むといった方が正しい気がするが・・・。
「マリアちゃん、勘違いしないで欲しいんだけどさ、私は鍛冶師だけど同時に商人だよ。対価に見合う仕事くらいさせてもらうよ」
「はい。お礼はちゃんとさせていただきます―――」
「違う違う」
カエリアが呆れたように手を振って言う。
「この食事のお礼に、協力するって言ってるのさ。商人はタダでは物をもらわないものだよ」
そうカエリアが言うと、マリアの顔はぱあっと明るくなり、「ありがとうございます」と頭を深く下げた。
「ケントさんはどうですか?」
親衛隊の視線が俺に突き刺さる。
マリアとは長い付き合いになったし、もちろん手伝おう。でも、対価は欲しいかもね。
「もちろん協力するよ。でも、その代わりに魔剣の情報があったら教えてよね」
「もちろんです。ケントさんの目的は剣ですもんね」
マリアがにこりと笑う。親衛隊の厳しい視線もそれと同時に無くなった。
「今日は王城に泊まっていってください。良い客室をご用意しますね」
「じゃあお言葉に甘えて」
俺たちは親衛隊に案内されて、部屋に向かった。もう月が高く昇っていて、廊下には月明かりが差し込んでいた。
いつのまにかこんな時間になっていたんだな。




