晩餐
部屋の中は、床中央には赤い絨毯が敷かれており、その上にテーブルが置いてあった。部屋の壁を二分するように中央に暖炉があり、その反対側には窓が四つあって、花壇を見下ろすことができるようだった。
部屋に入ると、先に着いていたカエリアが手を振って挨拶してきた。
「ケントくんもきたね! ここすごいよ! 全てが今まで体験したことがないほど豪華!」
確かに、今まで歩いてきた廊下も掃除が行き届いており、歩きやすく、窓からは陽の光が絶え間なく降り注いでいた。これを豪華と言わずに何と言おうか。
「そうだね。正直、落ち着かないな」
俺はカエリアの向かい側に座った。
「それでは、もうしばらくお待ちください。準備ができ次第、マリー様がいらっしゃると思います」
そう言って、ローチは部屋から出て行った。
「カエリアは昼間の間何してたの?」
「そうだね・・・店の下見をして、この街の鍛冶屋に行ったりしてたかな」
「ふーん」
俺は興味なさげに返事した。自分で聞いておいて悪いが、ただの暇つぶしで聞いただけで、興味は対してなかったのだ。
『ケント、一応詳しく聞いとけ。そろそろお前も防具を買っても良い頃だろう』
ホープの助言通りにすることにした。
「その鍛冶屋は、どうだったの?」
「結構すごかったよー。やっぱりうちの店よりも設備が充実してて、うちじゃあ作れないものも並んでた」
カエリアは少し渋い顔をしながら言った。やっぱり同じ鍛冶師として悔しいんだろうか。
「でも、一つ一つの仕事がちょっと粗かったね。私が作った方が良いのができるはずだよ!」
「そうなの? じゃあ、またカエリアのお店を使うことにしようかな」
「そう言ってくれるのはほんっとに嬉しいんだけどねー」
カエリアは残念そうに笑う。
「なにか問題でもあるの?」
「なんせお金が無くてね・・・これ以上設備を充実させることができないんだよね」
『金か・・・』
『お金ならケントが出してあげればいいじゃん』
確かに、ヒメの言った通り、お金を俺が出してやれば、良い防具が手に入るな。
「俺がお金を出すよ。俺は冒険者だから、結構稼げるはずだよ」
「え、いいの?」
「その代わり、防具を安く譲ってよ」
そう言うと、カエリアは立ち上がり、俺の手をがしっと握りしめてきた。
「ありがとう!男に二言は無いよね!ここにちょうどペンと紙があるんだ!さあここにサインをしてねもちろん二枚あるから両方に私とケントくんのサインをして、お互いに一枚ずつ持ってようねほらほらはやくはやく」
カエリアは手早く書類を作成し、俺をまくしたててきた。俺はあれよあれよといううちに書類にサインをしていた。
まあ、問題は無いよね。
「むふふ・・・これであれもそれも揃うってことだね・・・ふふふふふふふふふ」
カエリアが不気味な笑いをしていた・・・。
しばらく待っていると、扉をノックする音が聞こえた。
「失礼します」
その言葉と共に入ってきたのは、料理を乗せた手押し車だった。俺の知っているものよりもしっかりしているように見える。料理が入り切ると、その後ろから親衛隊と思われる三人が続けて入ってくる。その後、美しい装いのマリアが部屋に入ってきた。マリアは俺といたときの防具ではなく、純白のドレスを身に纏っていた。頭には綺麗なティアラが乗せられていて、軽くだが化粧もしているようだった。
率直に言って、すごく綺麗だった。俺はマリアが席に着くまでの間、彼女の美しさに目を奪われていた。
「皆さん、ありがとうございます。さて、食事の準備も整いましたね」
気が付くと、マリアはテーブルの端、俺たち二人の顔がしっかり見える位置に腰かけていた。手押し車を押していた給仕係と思われる女性たちはいなくなっていて、テーブルには豪華な料理が並べられていた。親衛隊の三人はこの場に残っている。
「お二人とも、ようこそお越しくださいました。最初に、謝罪をさせてください。いままで騙していてごめんなさい」
マリアが深々と頭を下げる。
「姫様! 王族が平民に頭を下げるなど―――」
俺が見たことのない男がマリアを咎めようとしたのを、マリアが一声で制する。
「お黙りなさいシアン。私はこの方たちを騙していたのです。王族としても、一人の人間としても、とうてい許される行いではありません。まずは心を込めて謝罪をしないと、私は王族どころか人間ですらなくなってしまいます」
「姫様・・・」
「アン様はこういうお方なのだ。忘れたのか?」
キーマンがシアンと呼ばれた男を慰める。
「失礼しました」
「ケントさん、カエリアさん。お詫びとしてはとうてい足りないとは思いますが、晩餐をご馳走させてください」
そう言うと、親衛隊の三人も席に着く。席はマリアの隣だ。
「普段から私の近衛はともに食事を取ることにしているのです。お許し願います」
マリア以外の親衛隊の人たちは一緒に食事を取ることはしないということなのだろうか?
マリアが両手を重ねて握って顔の前に持っていき、祈りを捧げる。
「今日も、我々に糧をありがとうございます」
「「「ありがとうございます」」」
親衛隊の三人も同じポーズを取って、祈りを捧げていた。
俺たちもそれに倣って祈りを捧げた。
「感謝を込めていただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
料理は豪華な物で目白押しだった。鳥の丸焼きを主軸に、新鮮な野菜をふんだんに使ったサラダ、北の国から取り寄せたという米もあった。どれも美味で、一口食べる度にほっぺたが無くなってしまうかと思ったほどであった。
食事もひと段落付いたところで、マリアが口を開いた。
「お二人とも、お食事の方はどうですか?」
「めっちゃ美味い・・・」
「言葉にならない・・・」
二人ともこんなに豪華な食事を食べなれて無くて美味しいのは美味しいのだが、そういう顔ができなくなっていた。
「少し豪華にしすぎましたかね・・・」
「姫様の気持ちはきっと伝わっていますよ」
キーマンがにっこり笑って俺の顔を見る。その顔は一見笑っているように見えるが、ライネルに睨まれた時のような殺気が感じ取れた。
『こいつが一番心酔してそうだな・・・』
「うん! もちろんだよ! ははははは」
無理に笑って見せる。顔が引きつってないと嬉しいんだけど・・・。
「シュルク、お客様を怖がらせてはいけませんよ」
「申し訳ありません。アン様」
「すみません。シュルクは基本は忠実で紳士的なのですが、私の機嫌を取りすぎるきらいがありまして・・・」
「大丈夫、気にしてないよ」
「なら良いのですけれど」
マリアは一息ついて、真剣な顔色に変えて話し始めた。
「お二人には、お詫びとして私のすべてをお教えしたいと思います」




