釈放
俺達が牢屋に囚われてから3日が経っていた。部屋はかび臭いが、毎日掃除してくれるし、飯も1日3食出る。そこまで苦ではなかった。
持ち物は鞘とポーチは没収されてしまったが、腰に提げていた木刀とミコトは取り上げられなかった。剣のことを軽視しているこの国ならではの処置といえるであろう。
「もう3日! どうなってるのさ!」
しかし、俺と同室にされたカエリアはひどく荒れていた。仮にも彼女は女性だ。3日も湯浴みができなくては苛立ってもしょうがないだろう。しかも無実の罪で囚われているのだから尚更だ。
「ケントくんは良く平気だね?」
「俺はこいつらが一緒だからな」
『ちょっと照れちゃうね』
俺は木刀で素振りをしながら答えた。他にすることもないので、だいたい素振りしている。2人用の牢屋だからか、少々暴れたところで手狭にはならないのがここのいいところだ。
毎日、牢屋の前を通っていく顔見知りがいるので、尋問自体は進んでいるのだと思うが、一向に俺達の番にならないのが不自然だった。
そんなことを思っていると、牢屋番の男が、声をかけてきた。
「小僧、お前の番だ」
どうやら俺の番らしい。牢屋番が鉄格子の扉を開けて俺を出す。
「お先に」
俺はカエリアに挨拶をして、牢屋番に付いていった。
通されたのは殺風景な部屋だった。扉が一つと、鉄格子で塞がれている窓が一つあった。中央に机が置かれて、その周りに向かい合わせに座れるように椅子が配置されていた。奥側には、既に初老の男が座っていた。おそらく俺達を捕まえた門番だろう。
俺は促されて椅子に腰掛けた。俺が腰掛けた瞬間、扉に鍵がかかったようで、カチャリと音がした。
「さて、さっそくだが、尋問に入らせてもらう」
初老の男は俺の目を真っ直ぐに見て、少しキツめの声色で言った。
「まず、君の名前を教えてもらおう。フルネームで答えたまえ。おっと、偽名を名乗った場合、こいつが教えてくれるから、真実だけを述べるように」
男は懐からベルを取り出し、机においた。おそらく、魔導具だろう。
「俺の名前はキリツグケント。キリツグが姓でケントが名前だ」
男はベルをちらりと見て、嘘ではないことを確認した。
「嘘ではないようだな。私はウールン・バンという。今回の尋問を行う尋問官である。早速だが次の質問に移らせてもらう。率直に聞こう。君はこの国の第三王女、マリー=アン=ウィンチェスター様を誘拐し、奴隷に落とし、人身売買をしようとしたね?」
「いや、してないけど。あと、その第三王女って誰のことを言ってるのさ」
俺がそういうと、ウールンは机をバンと叩き、苛立ちを露わにした。
「金色の髪と緋色の瞳を持つ女性だ! 知らないとは言わせんぞ!」
「ああ、マリアのことか」
「まさか、本当に知らなかったのか?」
ウールンがベルを持ち上げたり中をのぞき込んだりしながら言う。
「王女だなんて知らなかったよ。俺は王都まで護衛を頼まれただけだ」
ベルは一切鳴らなかった。
「そんな・・・」
ウールンは見るからに狼狽していた。この尋問は無理やりやっていたのか?成功しなければお仕置きがあるとかそういうのなのか?
そんな中、扉をノックする音が聞こえた。
「なんだ! 尋問中だぞ!」
ウールンが怒鳴ると、扉の外からくぐもった声が聞こえた。
「釈放だ。扉を開けろ。ウールン」
「鍵を開けろ」
ウールンがそういうと、扉の鍵が開く音がした。その瞬間、扉が開き、若い男性が入ってきた。男性は身なりが良く、かなりの金持ちであると推測できた。
「ウールン、お前の勘違いだ。今すぐ全員釈放するんだ。これは奇才の三女、マリー=アン=ウィンチェスター様のご指示だぞ」
「お前は、親衛隊の・・・わかった」
ウールンは軽く舌打ちした後、部屋を出て行った。
「我が国の兵が失礼したね。彼は昔から王女様たちを見てきたから、少し神経質になっているんだよ。最近悪い噂も後を絶たないしね」
「あんたは?」
「おっと、失礼」
男は背筋を伸ばし胸に手を当てた。昔ビガンが同じポーズをしていたのを見たことがある。
「私は親衛隊長を務めさせてもらっている、シュルク=キーマンというものだ。以後お見知りおきを」
キーマンは緩やかに握手を求めてくる。俺もそれに応じた。
「俺はキリツグケント。釈放はマリアが?」
「ああ、あなたたちはアン様のことをマリアと呼ぶのだったね。アン様から伺っているよ。そうだ。アン様は君の身を案じていたよ。それと連れがもう一人いるんだったね。君と連れの女性は今夜ディナーに招待したいとアン様がおっしゃっていたよ。これが招待状だ」
キーマンは一通の封筒を取り出し、俺に渡してきた。表には何かのマークが描かれていて、裏返して端っこの方に、『マリア』と達筆な字で書いてあった。封を切ると、一枚の紙が出てきた。
ケントさんへ
こんなことになってしまって、まずはお詫びをさせてください。キーマンと名乗る男からこの手紙を受け取ったと思います。彼は数少ない私の親衛隊の一人です。信用してください。
今夜、城に来てください。この手紙の入っていた封筒を門番に見せれば通してくれると思います。そこですべてをお話します。
簡潔な内容が如何にもマリアらしかった。
「わかった。キーマン・・・さん。ありがとう」
「いえいえ、私は任務を遂行したに過ぎないよ。お連れの女性とも、今夜会えることを楽しみにしているよ」
そういうと、キーマンは部屋を出て行った。




