発覚
「皆さん、見えてきましたよ」
御者が馬車に乗っている俺たちに向かって言う。
馬車から前方を覗き見てみると、立派な城壁に囲まれた街が見えた。街の中心部には大きな城があり、街を見下ろすようにそびえたっている。街の規模は遠目に見ただけでもスミスの町の四倍ほどはあるだろう。
ここに来るまで、スミスの町から一か月ほどが経過していた。その間、凶暴な動物に襲われたり、盗賊が現れたりなどしたが、俺たちが追い払った。
どうやらアーグが手配してくれたこの馬車は、護衛込みということだったらしい。そういうことは前もって言ってほしいものだ。もしかして、俺以外には言ってたのかとも思ったが、マリアやカエリアも聞いていないとのことだった。カエリアに至っては戦闘面では俺の足元にも及ばないほどのへっぴり腰だったので、馬車に隠れていてもらったほどだ。
「あれが、王都ウィンマークです」
俺と代わって、マリアが馬車から王都を覗き見する。俺とマリアは隣合って座っていたため、一人ずつしか覗けなかったのだ。彼女の少し細くなったその眼差しは、懐かしさを帯びているようだった。
「でっかいねー! こんな街で店が開けるのかと思うとわくわくするよ!」
カエリアも街を覗きながらはしゃいでいる。
道中はカエリアのおかげで装備のメンテナンスも難なく行えた。この件に関しては彼女に礼をしようと思っている。
「マリアの家はどこらへんなんだ? 良かったら家まで送るよ」
俺がそう言うと、マリアは少し渋るような、悪戯を見つけられた子供のような、そんな表情をしながら言った。
「あ・・・そうですね・・・街の中心部の方にあるんですけど、きっと両親に怒られてしまうので遠慮しておきます」
「王都の中心部だって!?」
カエリアが食いついてきた。
「ってことはどこかの貴族様のご令嬢だったってことかい?」
王都は中心部である王城に近くなるほど、王族に近しい貴族の住まいが多くなる。中には風変わりな貴族もいるらしいが、基本的にはそれだ。ビガンの家のように、どこかの領地を任されている貴族もいるが、王城近くに住んでいる貴族よりかは王族とは親密では無いらしい。
「まあ、そんなところですね」
「じゃあお近づきになっといて正解だったね! マリアちゃんの・・・貴族のご令嬢をそんな呼び方じゃまずいかな?」
「大丈夫ですよ。少なくとも両親のいないところでは」
「そうかい? ありがとね! マリアちゃんの目利きがすごかったからこそ、お近づきになったのもあるし、やっぱり貴族階級の方々ってのは庶民とはなにか違うのかな?」
「そんなことないですよ。貴族だろうとなんであろうと、私は一人の人間ですから。さほど変わらないと思いますよ」
マリアがちらりと俺の方を見る。
なんだろう、なにかの意志がこもった眼差しに思えたが、気のせいだったかもしれない。
そんな話をしていると、馬車が止まった。城門の前で検問があるらしい。外が少しざわついていた。
「ただの馬車ですよ」
「一応、確認の為に中を拝見させてもらうぞ」
「どうぞ」
御者と門番と思われる声が聞こえる。
そう思った次の瞬間、馬車の入り口から、門番と思しき甲冑を付けた初老の男が覗いてきた。その男はマリアを一瞥すると、顔色を変えた。
「姫様? あなた様は、第三王女マリー=アン=ウィンチェスター様ではないですか!?」
驚いたような声で門番は言ったが、一番驚いたのは俺だ。なんせ、ただの貴族令嬢の護衛だと思っていたのが、まさか王族の護衛だったとは・・・
「ええい! きさまら! 姫様を秘密裏に攫い、奴隷にでも落とすつもりだったな!」
「い、いえ! 滅相もありませんよ! それに王女様がこんなみすぼらしい馬車に乗るはずがありませんでしょう!」
御者が激昂する門番を宥めようとするが、門番は聞く耳を持ってくれない。
「違います! この人たちは・・・」
「おお、姫様、脅しか何かで言わされているのでしょう・・・。こいつらを牢へぶちこめ! 後ほど尋問を行い、それで白だとわかれば釈放する!」
初老の門番が他の門番に指示する。マリアの声も、興奮しきった門番には届いていないようだった。
あれよあれよといううちに、俺たち一行は牢屋に閉じ込められてしまった。




