滅せよ
ケントさんの体から追い出された悪魔は宙で佇んでいました。
「私がやります。リーエンさんはケントさんを連れ、結界の外へ」
「わかった。無理するなよ」
手でリーエンさんに合図を出します。リーエンさんは、気を失ったケントさんを引きずって結界の外へ出ようとします。
「させるかよ!」
本性をむき出しにした悪魔がリーエンさんに向かって飛んでいきます。その行動は予測済みでした。私は聖印を込めたロザリオをリーエンさんの首目掛けて投げます。ロザリオは私の狙い通り、奇麗に首にかかってくれました。
リーエンさんに真っすぐ突っ込んでいった悪魔はリーエンさんに触れた瞬間に悲鳴を上げました。聖なる力が宿ったロザリオを身に着けた者には、悪魔は触れることすら許されないのです。
「ぐぎゃあ! 貴様ぁ! この、この俺が、この魔王様直属の配下であるベルゴール様にぃ! こんな汚らわしいものをぉ!!」
叫びながら悪魔ベルゴールはその姿を巨大にしていきます。背丈は私の倍ほどで、体は鍛え上げられ、巨漢のようでした。悪魔の象徴とも言える角と尻尾も生えていました。
私はその間にリーエンさんの元に駆けて、ロザリオを回収しました。
「申し訳ありません、返してくださいますか」
「ああ」
リーエンさんは快くロザリオを返してくださいました。本当に優しいお方です。
「この姿ならば、お前をこの爪で貫くことなど容易よ」
厚く鋭い爪を私に見えるように掲げながらベルゴールが言います。
「ならばやってみなさい」
私は挑発的にロザリオを持っていない方の手で手招きをしました。その挑発に上手く乗ってくれたようで、ベルゴールは真っすぐ突っ込んできて、爪を私の体に突き立てようとします。その瞬間、私はロザリオを持っている方の手を前に突き出しました。
「ばかな!」
ベルゴールの爪は私の掌に触れることなく、なにかに阻まれるように止まっていました。
「今ここで消滅するあなたには関係ない話かもしれませんが、私の名前を教えておきます。私の名はマリー=アン=ウィンチェスター。このウィンチェスター王国の第三王女であり、この国の神官のまとめ役。大神官長です」
「う、うそだ! 大神官長は今は隠居中でこんなところにいるはずがない!」
「それは情報が古いですね。私は先日、王都に戻ると手紙を送ったはずです。今頃、お姉様たちにはこのことが伝わっているはずですよ。監視でも付けておくんでしたね」
私が両手を目の前にかざすと、結界が縮まっていき、悪魔を押しつぶしていきます。
「く、くそがああああ!!」
「邪なる怪物よ、聖なる光の中で滅せよ。消滅!」
私が両手を閉じると、悪魔は結界に押しつぶされて、ちりも残さず消滅しました。
「これで、作戦は成功、ですよね?」
私は呆然としているリーエンさんの元に近寄り、確認をとります。
「あ、ああ。あとは他のやつに任せておけ!」
リーエンさんは考えるのをやめるように頭を振り、立ち上がって胸をドンとたたきました。
「そうそう、リーエンさん、さっき聞いたことと見たことはケントさんには黙っていてもらえますか?」
「別にかまわねえが、理由を聞いても良い・・・ですか?」
「止してくださいそんな物言い! これまで通りでお願いします!」
私は手をぶんぶんと振り、拒否します。
「いいのか?」
「少なくとも私がそういう立場にあることはリーエンさんしか知りませんから。それに、そんなよそよそしくなったら幾らケントさんと言えども気付きますからね」
「それもそうか・・・。わかったぜ」
「ありがとうございます」
リーエンさんはなんとか納得してくれたようで、ニッと笑って承諾してくれました。
そのあと、リーエンさんにケントさんを担いでもらい、私たちは森を後にしました。




