修行
その日から、ホープによる僕を鍛える日々が始まった。
ホープ曰く、僕は剣を扱うにはなにもかも足りないらしい。筋力、身長、知識、練度。
練度はまだしも、身長まで足りないと言われるとは思わなかった……。確かに僕の身長は低い方だけど……。
まずは体力、筋力を付けるために筋トレの毎日だった。それも半年もすれば成果が出てきて、そこら辺の丸太を引っ張ることくらいはできるように……というか、筋トレの一環としてやらされた。
その甲斐あって、一年後には剣の特訓が始まった。とはいっても、最初は木の棒に石を括り付けてとにかく振るってだけだったけど。
剣の修行を始めてしばらく経った頃、お父さんにお願いして、家から御神体の木刀を持ってきた。
『おいおい、それは一体……』
木刀を見せると、ホープが驚いたような声を発した。
「これは家の御神体なんだよ。いつも家を守ってくれてるんだけど、剣の修行をするなら役に立つかと思って持ってきたんだ」
『そうか………なるほどな………』
「ホープ?」
『いや、なんでもない。今はその時じゃないんだろうしな』
僕がなんのことかわからずに首を傾げても、ホープは木刀を『いつもと同じように振れ』というだけで、詳しくは教えてくれなかった―――
―――『今日は精霊力を操るための勉強をしてもらう。まず、精霊力というのは知っているか?』
僕は首を横に振る。
『ふむ。なら、それから説明しよう。精霊力とは、魂の鼓動によって発生するエネルギーのことだ。そのエネルギーを操り、魔法を行使したりする』
「魔力じゃなくて?」
僕が知っている限り、魔法は、空気中に漂っている魔力を集めて固めて行使するものということだったのだけど。
『魔力だあ?そんな貧弱なもんを使ってんのかよ今の奴らは』
はぁーと長い溜息を吐いたあと、ホープは続けた。
『魔力ってのは精霊力の残滓みたいなもんだ。魂が鼓動したときのエネルギーが漏れ出ちまったものだな』
「じゃあ、精霊力の方が強いエネルギーってこと?」
『まあ、そんなとこだな。よし、座学はここらへんにしよう。俺の柄を握れ』
僕は立ち上がり、言われたとおりに柄を握る。柄は僕の肩あたりの高さにあり、まだ剣を振るには身長が足りないように思える。柄を握ったとき、僕の中の奥底でなにかが蠢いた気がした。
『まずは自分の魂の鼓動を感じろ』
僕は目を閉じて、自らの体に全神経を集中した。
「体の奥底でなにかが蠢いているような感じがするんだけど」
『それが魂の鼓動だ。すぐに感じ取ることができるとは、さすがに才能があるな。じゃあ、炎を思い浮かべろ。剣に灯った激しい炎だ』
言われたとおりに思い浮かべる。激しい炎、全てを燃やし尽くすほどの高温の炎……
『思い浮かべたら、そのまま魂の鼓動に集中しろ。そして、魂を鼓動させろ』
奥底の魂が、ドクンと脈動した。
その瞬間、体中を何かが駆け巡り、手に集中していった。
『手を離すなよ!』
「熱いよ……」
手が熱い。焼けそうだ……!!
そう思った途端、手の熱さが急に無くなった。目を開けてみると、剣には炎が宿り、メラメラと激しく燃えていた。
『一発成功とは、まだ子供とは思えないな。そのまま火を消してみろ。またイメージするんだ。魔法はすべてがイメージでできていることを体で覚えろ』
僕が炎が水に濡れて鎮火するように思い浮かべると、スッと剣の火は消えた。
『まずまずだな。柄から手を離していいぞ』
柄から手を離すと、僕は自然と腰が抜けて尻餅をついていた。
「あれ……」
なぜか立ち上がれなかった。
『才能があるといっても、まだまだ未熟だな。初めてのことだったし当然のことではあるけどな』
僕が目をぱちくりさせていると、ホープが言った。
『精霊力を使うのは信じられないほど体力を使う。だからこれからはその反動に耐えられるように慣らすのと、より一層の筋トレに励むようにな』
僕はまだ立ち上がれないまま、首を縦に振った―――
―――そんな毎日を送っている間に時は過ぎ、俺は15歳の成人になる日を迎えていた。