フォーカス
俺は静かに目を閉じる。そして外からの情報をすべて遮断し、自分の内側に集中する。
自分の中の精霊力を全身に行き渡らせるようにする。ホープに教えてもらった精霊力を使った肉体強化の方法だが、一度も成功しなかった。ホープ曰く、精霊力の扱いに慣れていない為らしい。実践経験を積めば次第にできるようになるということなので、今回はやってみようと思い立ったのである。
というか、できなければ待ってるのは死だ。俺の命か、味方の命かは定かではないが。
俺が目を開けると、俺の目の前でゴブリンバーサーカーの斧を受け止めるマリアがいた。だが、次の瞬間、マリアのホーリークロスは無残に砕け散った。
俺はすぐさまマリアの前に出て、斧をホープで受け止めた。普通なら間に合うタイミングではなかっただろう。だけど、俺の体はいつもより軽く、素早く動くことができた。こころなしかゴブリンバーサーカーの斧も遅く見えた。
「ごめん。待たせた」
「ケント・・・さん・・・?」
マリアは目を丸くして俺の顔を見ていた。なにか俺の顔についているんだろうか。
『成功したみたいだな』
『やればできるじゃないか。ホープからまだ集中が使えないって聞いてたから、心配してたんだよ』
「ケントさん、目が・・・」
「え?」
俺は左手は斧を受け止めたまま、右手を目のあたりに持って行ってみる。特に違和感は無い。
『白く光ってるな。精霊力が体全体に流れている証拠だろう。そんなことより、早く仕留めろ。初めての集中だ。長くはもたないだろうよ』
「わかった」
俺は斧を軽く弾き飛ばした。さっきは重く感じたのに、やけに軽く感じた。これも集中の効果だろうか。
「悪いな。遊んでる暇は無いらしい」
ゴブリンバーサーカーが怒り狂った咆哮を上げ、斧を再び振り下ろしてくる。それをホープで弾き飛ばすのとほぼ同時に、俺はゴブリンバーサーカーの後ろに回り込み、首を一閃の元に切断した。さっきは気付かれたはずの動きに、ゴブリンバーサーカーは全くついていけていないようだった。
ゴブリンバーサーカーの首がゴトンと地面に落ち、体が崩れ落ちるように倒れる。
思った以上にあっさり倒せたな。集中というのはここまですさまじいものなのか。
「まじかよ・・・」
リーエンが絶句していた。ゴブリンバーサーカーというものはそれほどまでに強敵だったのだろうか。
「すごい・・・」
マリアまで目を丸くしていた。確かに精霊力の扱いに慣れてきた証拠になって俺もうれしいんだけど、この驚きようは異常だよな。
『ゴブリンバーサーカーといえばゴブリンの上位種の中でも戦闘能力に特化したやつだったよね』
『まあそんじょそこらの冒険者くらいなら四人がかりでも死ぬだろうな』
「そんなに強かったのか・・・」
二人が驚くのも無理はないな。
邪魔者もいなくなって、魔導石を掘り出せるようになった。
意気揚揚と魔導石を掘り出していると、リーエンが声をかけてきた。
「ケント」
リーエンは俺が振り向くのを確認すると、奇麗な黄色い石を投げてきた。それは角ばったところが一切見受けられず、宝石だと言われても疑わないほど綺麗であった。透かしてみると、中に何か入っているような光も見えた。
「それは魔石だ。こういう上位種の魔物からは、心臓の代わりになる魔力の結晶石が取れることがあるんだ。それを一般的に魔石というのさ」
「魔石にはいろいろな使い道がありますよ。魔道具を作るときにも使えますし、奇麗なので指輪などにする人もいるみたいです」
「ふーん・・・」
魔道具は確かに興味あるけど、今は路銀を溜める方が大事な気がする。
「ちなみに売ったらいくらくらいになる?」
「こんな貴重な物売るなよ! 大事に持っとけ!」
リーエンに強引にポーチに押し込められた。貴重な物なのはわかるけど今はお金なんだけどなあ・・・。
「金なら今回の報酬弾んでやるから、ちゃんと持っとけよ。それか、マリアに贈っても良いんだぜ」
「リーエンさん!」
リーエンがしわだらけの顔をニヤリとゆがめて言う。マリアはリーエンに怒鳴っていた。
顔を真っ赤にするほど嫌なのか・・・。さすがにそこまで拒絶されるとショックだな。
『この鈍感野郎め』
なにか聞こえた気がしたが、聞かなかったことにしよう。
何はともあれ、これで魔導石が手に入ったし、きっと集中を使えばヒメも抜けるはず。2つの魔剣を手に入れることができるはずだ。
俺は意気揚揚と洞窟を後にした。




