ゴブリンの洞窟
翌朝、朝食を済ませ、身支度を整えた俺たちはゴブリンが巣くうという洞窟までやってきていた。ミコトは腰に下げて持ってきている。
リーエンはライフルと二丁の拳銃を持ってきているようだった。両方とも実銃だ。
「ここか」
そこは森の中に突如盛り上がりが出現したような、大口を開けた巨人が地面に埋まっているような形の洞窟だった。
「洞窟というよりもダンジョンのように見えますね」
「見た目はな。だが罠もなにも無いただの洞窟だったからな」
『ゴブリンが巣くってるなら罠が仕掛けられていてもおかしくないけどな』
洞窟の中は下へ階段が続いているようだった。それは深淵へと誘っているかに思えた。というのも、暗くて足元すらおぼつかないほどなのだ。
「くらっ」
俺が声を漏らすと、リーエンがランタンを取り出し、火をつけた。
「私は神聖魔法が使えるので、それで照らしてもよかったのですけれど」
「それは温存しときな。ゴブリンってのは洞穴に住むやつらだ。何があるかわかんねえからな」
「わかりました」
俺たちは暗がりの中、ランタンの明かりだけを頼りに階段を下りて行った。しばらく降りていくと、平坦な道に出た。リーエンが言うには、この洞窟は一本道で、この先に大きな広場のようなスペースがあり、そこに魔導石があるらしい。
「とまれ」
先導していたリーエンが手で俺たちに静止を指示した。
「足元を見てみろ」
足元を見ると、そこには一見何もないように見えるが、よく見ると細い糸が張られていた。
「罠だろうな」
「すごく見えにくい糸ですね。急いで歩いていたら気付かなかったかもしれません」
ずいぶんゆっくり進むなとは思っていたけれど、こういうものの警戒をしながら進んでいたということか。
その糸を慎重に跨いで、先へと進む。罠はさっきのものだけだったようで、難なく広く開けた場所まで来ることができた。
そこには、暗くて数は正確に把握できないが、ゴブリンがいた。おそらく数体はいるだろう。
「よし、奇襲をかけるぞ。ここまでゴブリンには遭遇しなかったから、多分大した数じゃないと思うからな。だが、まずいと思ったら引けよ」
俺は頷いて了解の意を示した。
「じゃあ、マリア、神聖魔法で辺りを一気に照らしてくれ。俺たちの目が眩まないように、後ろから頼むぞ」
「わかりました」
マリアはロザリオを手に巻き付け、その手を掲げながら詠唱に入った。
「我らが神よ、我らの行く末を大いなる光で照らし、導き給え・・・聖光!」
その瞬間、マリアの手からまばゆい光が放たれ、広場の全容が明らかになる。その瞬間、俺は飛び出して小さいゴブリンに狙いを定めた。
広場は石のドームのようであった。奥には魔導石と思われる鉱石、そして―――
「ゴブリンバーサーカーだと!?」
人間の子供ほどの大きさの緑色の体色をした怪物が十数匹、そして、手に巨大な斧を持った人間の大人の二倍ほどの体格の怪物が一匹いた。
俺はミコトに手を当て、精霊力を込めた。
「雷神・迅雷―――!」
俺の体は一瞬にして小さなゴブリンの背後に回りこんだ。そのままミコトで首の後ろを突き刺し、絶命させる。それを何度も繰り返し、小さなゴブリンはあっという間に全滅した。半分はリーエンの銃弾によるものだったが。
奇襲の甲斐あって、あとはデカブツのみとなった。
「迅雷!」
俺は迅雷で壁を蹴るようにしてデカブツの後頭部に回り込み、これまでと同じく首の後ろを抉ってやろうとした。
しかし―――
『早いな』
デカブツは俺の動きを察知し、首を後ろにひねっていた。その結果、俺の攻撃は急所に当たらず、軽い傷を作っただけだった。
俺はデカブツの頭を蹴って距離を取る。せめてもの抵抗といった感じだな。
「ケント―――」
デカブツが咆哮する。それは洞窟内に反響し、耳がつぶれるかと思うほどだった。
そして怒りをあらわにしたデカブツは俺に向かって斧を振り下ろしてきた。俺はホープを抜き、それを受け止める。
重い・・・。いくらなんでもこの体格差だ。受け止めるのは無理があるというものだ。ならなぜ避けなかったのか?避けなかったんじゃなく、避けられなかったんだ。
デカブツはその図体のわりに早く、受け止めるので精いっぱいだった。だけど、このままやられる俺じゃない。
斧のホープに触れている部分が溶け出してきていた。俺は受け止める直前から、ホープに精霊力を込めていた。今のホープは金属をも溶かすほどの温度になっている。
それに気づいたのか、デカブツは斧を引っ込めた。
デカブツと俺がにらみ合う。互いに、やるじゃねえかと言っているかのようだ。
双方の攻撃はほぼ同時、激しい剣戟となった。力と早さはほぼ互角のようで、両者渾身の一撃を振るい続けていた。そこには、精霊力を込める隙すらなかった。そこに、突如横やりが入った。
リーエンの放った銃弾が、デカブツの頭に直撃したのだ。
「引けと言っただろうが!!」
リーエンが叫ぶ。だが、俺にその気は無かった。結局魔導石を手に入れなければ俺たちの目的は達成されないんなら、ここは押しとおすしかないんだ。
『しかし、このままじゃ埒が明かないだろ』
ホープの言うとおりだった。実力は均衡していて、このままではどちらか体力が尽きた方が負けるだろう。そしてそれは恐らく俺だ。このままではジリ貧になってしまう。
呼ばれてちらりと二人を見た時、一つ思いついたことがある。でも、それは俺が成功したことがないものだった。それは二人を危険にさらしてでもすることなのだろうか。いや、俺の目的は魔剣を手に入れることだ。
その為なら、少々の賭けにも勝たないといけないよな。
俺は二人の元に一度戻った。その間、リーエンが銃でけん制してくれた。とどめに、マリアがもう一発ホーリーライトを放って目を眩ませた。
「二人とも、頼みがある。少し時間を稼いでほしい」
「承知でき―――」
俺の目を見たリーエンが言葉を押しとどめた。俺の決意かなにかが伝わったのだろうか。
「わかった。マリアは俺の援護とケントを守ってやれ」
そう言うと、二丁拳銃を引き抜き、飛び出していった。
「おねがいしますね。ケントさん」
俺は大きく頷き、目を閉じた。




