狩人の家
「ようこそ! 俺のマイホームへ!」
俺たちは老人の家へ招待されていた。さっきのお詫びをしたいということらしい。
老人の家は木造で、一人で住むにしては少し広かった。内装は質素で、テーブルが一つと椅子が二つに、台所と食べ物などを保管する四角い入れ物があるくらいであった。一応風呂とトイレは完備しているみたいだ。部屋の奥の方にもなにか箱のようなものが置いてあるけど、中身はここからでは見えなかった。
テーブルに腰かけて待っていると、老人がお茶を入れてくれたようで、ニコニコ顔でカップとポットを持ってきてくれた。
「茶くらいしか出せなくてすまんな。さっき食ったばかりだろうから、飯という気分でもないだろ」
「いえ、お招きいただき、ありがとうございます。このお茶も美味しいですね」
マリアが丁寧に一礼する。
「それは嬉しいね。自慢の茶葉なんだ。年に一度、北のノツルギ王国から仕入れてるんだ」
「それは美味しいはずですね。しかし、ノツルギ王国とは、長年冷戦状態が続いていて、貿易はほとんど行われていないはずですが、よく手に入れられていますね」
「まあ、俺も顔が広いからな」
老人は少しばつが悪そうな顔をしながら笑った。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺の名はリーエン。この森で猟師をしている」
「俺はケント」
「マリアと申します」
「ケントにマリアだな。まあゆっくりしていってくれ」
リーエンは俺たちの顔を順番に見てから、ニッとわらった。
「そういえば椅子が二つしかないんですね」
「ここに客が来ることは稀だからな。そんなに用意してなかったのさ」
「素材さえあれば椅子くらいは作れると思うよ。何かある?」
ヒメに触ったことによって地の力を得た俺は、土魔法の他にも、建築や創造系の魔法を使えるようになっていた。岩の椅子を作ったのもその一端だ。しかし、建築や創造をするためには、素材が必要だった。岩の椅子は地面から素材を加工して作ったものだったが、さすがに家具の一つとして作るなら、動かせる方が良いだろう。
「本当か!? 是非頼む。外に燃料用の木があるから、それで大丈夫か?」
「多分大丈夫だと思うよ」
俺はいったん外に出て、椅子を作ることにした。マリアとリーエンも一緒に来ている。
椅子の見本として、さっき座っていた椅子も持ってきていた。
「これだ」
リーエンが指さした方を見ると、奇麗に切られた丸太が山積みになっていた。丸太は三メートルくらいあったので、冒険者に手伝ってもらったのだろう。
「じゃあ一本もらうね」
俺は一番上の丸太を引き抜いた。地面に落ちた丸太がズシンと大きな音を立てる。
さすがにこの丸太を持ち上げるのはしんどいからね。
俺は頭の中に椅子のイメージを浮かび上がらせる。そのイメージを維持したまま精霊力を丸太に注いだ。すると丸太はみるみるうちに形状を変え、椅子の形へと変化した。
「できてよかった」
俺はふーっと息を吐きながら額を拭った。
「何度見てもすごいですね」
「まさか魔銃を使わずにやるとは思ってなかったぞ。お前、どこの出身だ?東の信仰国の出身だったりするのか?」
リーエンは魔銃を使わずに創造魔法を使ったのにたいそう驚いたようだ。それもそうか。この国は銃中心の国家で、なにをやるにも魔銃を使っているもんな。
「あんまり詮索はしないでもらえるとありがたいかな。この椅子は口止め料ってことで」
俺は椅子を持ち上げて渡そうとした。が、椅子は持ち上がらなかった。
そうだった。創造魔法で作ったものは、素材になった物と同じ重さになるんだった。三メートルもある丸太を使えばそうなるのは当然だった。
「ちょっと失敗したから作り直すね・・・」
「そうしてください」
「持ち上がらない椅子はちょっと・・・な・・・」
俺は椅子を作り直し、家の中へと戻ってきていた。椅子の礼として、今夜は泊めてくれるという話になったので、リーエンは腕を振るって肉料理を作ってくれた。布団はなぜか四セットほどあるらしく、全員寝られるらしい。
「そうだ。ついつい忘れてたんだけど、これ」
俺は一本の薬をテーブルに置いた。
「それは俺が頼んでおいた薬じゃねえか。ということは、お前らが依頼を受けてくれた冒険者だったのか」
「すっかり忘れてたよ」
「すみません。私も色々あって忘れていました」
マリアが忘れるなんて珍しい気がする。年のわりにしっかりしていたから、そう思ってしまった。
「良いってことよ。ってことは、お前らEランク冒険者か?」
「どうしてをれを?」
「俺の依頼はだいたい雑用だからな。入りたてのEランクのやつらには持って来いなのさ」
リーエンは豪快にガッハッハと笑った。
そして、俺はここに来てから一番聞きたかったことを聞くことにする。
「その箱には何が入ってるの?」
俺は部屋の奥にある箱を指差した。
「あれか。見てみるか?」
俺は頷き、リーエンと共に箱に近づいた。一緒にマリアもついてきた。
リーエンが箱を開けると、そこにはひし形の刃に持ち手が付いた、剣と呼ぶには小さい刃物二振りが収められていた。
「これは?」
「俺の守り神様だ。ノツルギの北の奥地の村で製造されたクナイという投擲武器らしい。盗人とかが入ると、決まってこの箱の前で倒れてるんだ。不思議だろ?」
『おいおい・・・こいつは・・・』
「大空の剣・・・」
「お前、これに見覚えがあるのか?」
俺は少しの間考えていた。俺たちの目的を明かすべきなのだろうかと。この国は銃至上主義国家だ。そんな国で剣を集めて回っているということが大っぴらに知られると、町に入ることすら拒まれる可能性がある。剣をぶんぶん振り回しているんだから今更かもしれないけど、無用な争いはできるだけ避けたい。
「ケントさん。私はリーエンさんは信用できる方だと思います。少なくとも、ギルドにたむろしているような方とは比べるまでもなく」
マリアの言葉に背中を押されるように、俺の決断は固まっていった。
「リーエン。これから話すことは誰にも言わないでもらいたいんだけど、良いかな」
「別にいいが、お前、目上のものには敬称を付けろよな」
「ごめん。リーエン・・・さん」
リーエンは頷くと、俺の話を促した。




