ヒメ
「あれが、ケントさんたちの探している剣・・・ですか?」
「ああ。おそらくだけど」
俺はホープを鞘に納め、地剣の元へ歩んでいく。そして、地剣の柄に振れた。
その瞬間、俺の中で何かが変わった、いや、何かが加えられたような感覚がした。そして、ホープに触った時と同じく、魂が大きく鼓動した。
『おや? おやおやおやおやおやおやー? そこにいるのはホープじゃないのー! ひっさしぶりー♪』
俺の頭の中にからっとした、元気で明るい女の子の声が響いた。
『ヒメ、久しぶりだな』
『ちゃおっすー! ひっさしぶりー♪ いつもニコニコ♪ 元気印のヒメちゃんだよー♪』
うるさいくらいに元気のある声に少し頭が痛くなる。ホープの少し落ち着いた雰囲気とはうって変わって、こちらは元気爆発と言った感じだ。
「君が地剣アースガルズに宿る精霊?」
『んー? そっかー! なんか急に意識がはっきりしたなあと思ったら、使用者が来たんだねー! もう待ちくたびれたよー。あの人が荒れ地の中心に私を刺してどっか行っちゃってから、私も暇になっちゃって、精霊力を流して森作ったりして遊んでたんだけど、精霊力使いすぎちゃってねー』
『その割には木を動かしたりしてたいていの人間が近づけないようにしてたみたいじゃねえか』
『まあねー。だって普通の人間が私に触ったら死んじゃうもん』
かわいい声で恐ろしいことをさらっと言うなこいつは。
「感動の再開のところ悪いけど、自己紹介しとくね。俺の名前はケント。このホープと一緒に魔剣を集める旅をしてる」
『おやおや、忘れてたよー。ごめんね♪ 私はヒメ。世界樹の根に宿ってた、大地を司る精霊。力だけならそんじょそこらの精霊王にも負けないよ!』
ヒメがえっへんとアピールしながら言った。
「それじゃ、見つけられたことだし、俺の旅に付いてきてくれるってことでいい?」
『いやー、それは無理かなー』
予想外の返答に俺は少し驚いてしまった。
「どうして?」
『その理由は三つあります! でもその前に、後ろの女の子にも私の声が聞こえるようにしてほしいな』
俺は後ろを振り返り、マリアを見やる。話に入って来られていないのを忘れていた。マリアは笑顔でじっと待っていたみたいだ。もしかしてちょっとだけ怒ってる?
「忘れてた・・・」
俺はマリアにもヒメに触れてもらい、話ができるようにした。
「それで、俺についてこられない理由ってのは?」
『まず一つ。私がここを離れちゃうと、この森は枯れてしまいます! そうすると急激な環境変化についていけなくなって、何が起こるか見当もつかない』
この巨大な森が枯れれば、食べ物も劇的に減るだろう。そうなれば食べ物を求めて争いも起きかねない。
『次に二つ目。私には血を分けたきょーだいがいます! その子を連れてこない限り私は突いていく気は無いです!』
「え、どうして?」
『見てわかんないかなぁ? 私女の子なんだよ? こんな荒れた肌で人前に出られないよ!』
俺は理由を聞いて溜息を吐いた。
「そんなしょーもない―――」
「しょうもなくないです!!」
マリアが俺の言葉を遮り言った。
「わかります。わかりますよヒメさん! 女の子はいつだって奇麗でありたいですし、奇麗でない女ん子なんて女の子じゃないといっても過言では無いですからね! お肌には私も気を付けてますよ!」
『わかってくれる子がいてよかったよ! あの子がいれば私のお肌もきれいになると思うから、とにかく連れてくるまでは動かないよ。幸い居場所はだいたいわかってるから、教えてあげるよ』
ヒメはその兄弟は町の反対側にいると教えてくれた。たしかそっちの方面にも森があったっけ。
『そして三つ目ね』
ヒメは急に神妙な声色で言った。
『ケント。君、私を抜けないでしょ』
「は?」
『かもな』
ホープも同意する。
「俺はホープに鍛えられて、精霊力を扱う心、剣の技、体力を子供のころから鍛えてきたんだぜ? ホープを抜けたのに抜けないわけないだろ」
俺が笑い飛ばすと、神妙な声色のままヒメが言う。
『じゃあ、やってごらん?』
俺はヒメの雰囲気に押されながらも、柄を握る。
そして、一気に引き抜こうと力を入れる。
だが、ヒメはびくともしなかった。
「そんな・・・」
俺は無力感に打ちのめされた。これまで死ぬ気でやってきたのに、未だに足りないらしい。
『そんな力じゃ私を抜くなんてできないよ。ホープはどう教えてたのかしらないけど、私に言わせれば、大切なのは心、技、力だね! 力の無い者に私は扱えないよ』
自身はあった。これまでも難なくとはいかずとも、魔物にも打ち勝ってきた。なのにここに来て、剣を振るう資格すらないだなんて・・・。
「ケントさん。大丈夫です」
マリアが俺に優しく声をかけてくる。
「人は成長できる生き物です。今はだめでも、また力を付けて取りにくればいいんですよ。子供のころから努力を惜しむことのなかったケントさんなら、きっとできます」
マリア・・・。
俺の折れた心は、マリアの言葉によって、また立ち上がろうとしていた。こんな言葉をかけてもらえなくては気付けないくらいには俺は驕っていたみたいだ。改めて、精進しないとな。
気が付くと、俺はマリアを強く抱きしめていた。母に抱き着くように、強く、わがままに。
「ありがとうマリア。俺はその言葉に救われたよ」
そんな俺を、マリアは最初は驚いていたようだが、優しく抱き留めてくれた。
「じゃあこれからどうしようか」
「まずは残りの二つを完遂するのはどうでしょうか」
俺は、どっかりと岩に腰掛けて次の計画を練ることにした。今座っている岩は俺が魔法で作ったものだ。ヒメに触れたことにより、土魔法がが使えるようになったらしく、やってみたらできたのである。マリアも俺の作った石造りの丸椅子のような岩に腰かけている。
「剣の場所が分かったのは願ったりかなったりだけど、もう一つの方は難しくない?」
「それなら私に案がありますよ」
『なにかいい方法があるの?』
ヒメもそのことは気がかりだったようで、話に食いついてきた。
「魔導石を使うんです」
「魔導石?」
「魔導石とは、魔光石よりも希少な鉱石で、魔法を石に込めることができるんですよ。それを魔銃に組み込めば、引き金を引くだけで込められた魔法を行使することができます。詠唱も不要です」
普通に便利だな。母さんが台所で着火する時に使ってたのもそれだったのかもしれない。
「でも、希少ってことは高いんでしょ?」
「それ相応の値段がすると聞いています」
俺はげんなりとした顔をしたが、マリアは明るい声でつづけた。
「しかし、スミスの町の西にある森にいった冒険者が持ち帰ったことがあるという話をギルドで聞いたんですよ」
「つまり・・・」
「自分で取ってくれば、お金なんて不必要なわけですよ!」
『おお! ケントと違ってマリアは頭も要領もいいんだね!』
本当のことだけどちょっとむかついたので、ヒメの柄を軽く殴っておいた。
「ちょうどヒメの兄弟がいるのもそのあたりだったよね」
『そういえばそうだね!』
「つまり一石二鳥ってことだ!」
『決まったみたいだな』
「次の目的地は西の森! そこで魔導石とヒメの兄弟の魔剣を見つけるぞー!」
おー!と、俺たちは高らかに雄たけびを上げた。




