大地の森
『というわけで、今日やることが決まったぞ』
「どういうわけだよ・・・」
朝起きると、ホープが意気揚揚と言ってきた。
「昨日の夜、ホープさんと話していたんですよ。大地の森の逸話について」
『その逸話を作ったのが、恐らく大地の剣だ』
「大地の剣って魔剣伝説のか?」
『そうだ。あいつは強大な精霊だったからな。刺さっているだけで精霊力が漏れ出して周りに影響を与えたんだろう』
「ということは、今日やることってのは」
『大地の森に魔剣を取りに行く!』
ホープが高らかと叫んだ。俺としても願ったりかなったりではあるけど、問題が一つある。
「でもさ、その剣のある正確な場所がわからないのにあの森をうろうろするのは危険じゃないか? マリアもいるし、できるだけ危険は避けたいだろ」
『それなら問題ない。あの森に入った時から違和感があったんだ。それがきっと大地の剣の気配だな』
「なんで昨日言わないんだよ」
『あそこで言っても時間無かっただろ』
「まあそうだけど・・・」
「それでも、情報収集くらいはしておいた方がいいですよ。まずはギルドで情報収集ですね。ゴアウルフの素材も換金できませんでしたし」
そういえばゴアウルフの換金を忘れていた。ということは結構お金に余裕はできるかもしれない。
ということで、俺たちは冒険者ギルドまでやってきていた。まだ朝早いのに、ギルドはしっかり窓口が開いていた。ありがたいことだ。
「これ、換金してほしいんだけど」
俺は素材買取用の窓口へ行き、ゴアウルフの素材をごろごろとポーチから出した。
「こ、これはゴアウルフの肉と毛皮じゃないですか!」
受付をやっていた俺と同じくらいの背丈の女性が驚く。雰囲気的に俺よりも年上なことがわかる。
「い、一体どこでこれを?」
「昨日薬草取りに森に入った時に襲ってきたから倒したんだよ。素材をはぎ取るとお金になるって聞いたから剥いできたんだけど」
俺があっけらかんとして言うと、女性は溜息をついた。
「ゴアウルフ、それもこの数となるとランクD、もしくはCレベルの案件のものですよ? それをいとも簡単に倒したなんて・・・。しかも剣で・・・」
女性は信じられないといった表情だ。
そういえば、この国では剣を使うのは異端なんだったっけ。特に苦労したこともないから忘れてたな。
「そんなに危険な魔物だったんだ。前にガンツ村を襲った熊の魔物は刃が通らなくて苦戦したけど、今回はそうでもなかったからそこまで大したものじゃないのかなと思ってたよ」
「く、熊ですって!? それをおひとりで・・・?」
「いや、あの時は友達も手伝ってくれたよ。俺も死にかけたし」
「その話が本当なら、納得もできますが・・・。にわかには信じられませんね・・・」
「それで、この素材はいくらくらいになる?」
このままでは話が進まないので用を済ませることにする。
「ああ、長々とすみません。この素材ですが、皮が比較的綺麗に剝ぎ取られているので、少し色を付けさせてもらって、合計で1000バンといったところですかね」
女性が硬貨を差し出してくる。俺は財布を取り出し、硬貨を受け取った。
「ありがとうございました」
素材の売却が終わった俺は、マリアの方に向かった。マリアには情報収集を頼んでおいたのだが、既に済ませたようで、椅子に腰かけて俺を待っていた。
「どうだった?」
「今はなぜか魔物がたくさん見受けられるというのと、森の中心部に近づこうとすると、なぜか森の外に出てしまう迷いの樹海と呼ばれる地帯があるそうです。私たちが昨日行ったのは森に入ってすぐのところだったので、そういう感じはしなかったですね」
「迷いの樹海か・・・」
『十中八九精霊力でなにかしらやってると思っていいだろうな』
「それならホープで焼き切ればいいかな」
『そうだな。精霊力には精霊力で対応すればいい』
「それじゃあ行きましょうか」
マリアがすっくと立ちあがり言った。
「え、待って待って。マリアも一緒にいくの?」
「もちろんですよ。ケントさん一人では心配ですからね。帰ってきたら森を焼野原にした犯罪者になってしまったとかになりかねません」
「でも、危険だし、宿屋で待ってた方が―――」
「私も行きます」
マリアはずいっと体を前のめりにし、俺に抗議する。その眼は意志は覆らないぞと俺に語り掛けているようだった。
『目は口よりも物を言う、か』
「わかったわかった。でも、無茶とかはしないでね。守り切れるかわからないし」
「はい! わかりました!」
マリアは満足したようで、元気に返事をした。
大丈夫なのだろうか・・・。
そして、俺たちは大地の森まで足を運んできていた。森は鬱蒼としていて、空が見えないくらいだった。幸い、木々の隙間から光がこぼれているので、暗くて先が見えないということは無い。
魔物が多いとは聞いていたけれど、まさかここまでとは。
「聖十字!」
「炎舞・焔!」
そこら中から出てくる出てくる。動物型の魔物ばかりで、ゴアウルフと大きな鼠型のゴアラットがこれでもかというほどに出てきた。
ゴアラットはすばしっこく、剣でも銃でも、仕留めるのは難しい。しかも魔物なので隙を見せればすぐさま噛みついてくるのでゴアウルフよりも厄介になることも多い。
そんなときに役立つのが、全方位に炎の粉を振りまいて身を守る、「炎舞・紅」という技だ。
ホープ曰く、『お前の使い方は間違っている』らしいけど、これでなんとかなるならそれでいいと思う。
マリアにはホーリークロスで身を守ってもらい、俺に噛みつこうとしてきたゴアラットを片っ端から燃やしていった。もちろん周りの木々には燃え移らないように注意して。
そんな感じで進んでいくと、なんだか雰囲気が異様な場所に出た。そこでは魔物に遭遇することが全くなくなった。そこに至るまでは五歩歩けば気配がするといった具合だったのにも関わらずだ。
「なんだか、神聖な雰囲気がしますね。私が子供の頃お世話になっていた教会を思い出します」
『概ね予想通りだな。これは精霊力で動いている木々だ』
「木が動いてるって?」
『ああ。後ろを見てみろ』
俺が後ろを振り向くと、さっき俺たちが通ってきた道が木々で塞がっていた。
どうやら本当に侵入者を拒む森のようだ。
『しかもこの先の道だが、先ほど進んでいた方向と微妙にずれているな』
言われてみれば足が右の方に逸れている気がする。このままでは俺たちも森の外に誘導されてしまうだろう。
「じゃあどうするかって? こうするに決まってるよな!」
俺はホープを抜き去り、木々を薙ぎ払った。
「炎舞・焔!」
連続して焔を放ち、木々を切り裂きながら進んでいくと、森の開けた場所に出た。そこには木は無く、奇麗な青空を一望することができた。そしてその中心部には、鍔の無い、細長く少し湾曲したような剣が刺さっていた。
魔剣物語の本を開いて確認してみる。その地面に突き刺さっている剣は、姿形はどう見ても大地の剣、地剣アースガルズそのものだった。父さんに聞いたが、これは北の方の地方で伝統的に作られている野太刀というものに近い形状らしい。
しかし、その剣は本に描かれているものとは一つ、全く異なった特徴を有していた。
刀身が綺麗に錆びていたのだ。




