閑話:宿の二人
私たちは、宿に戻ってきました。宿の二人部屋には湯舟が付いており、湯浴みができるようになっていました。割と豪華な宿をとったのかもしれません。
「ケントさん。先に湯浴みしますか?」
「んー・・・でも俺眠いんだよなあ・・・」
ケントさんは欠伸をしながらベットへ座り込みます。ベットは二人部屋だけあって、二つありました。なぜか一つにくっ付けることもできるようになっているようですが。
「だめですよ。一日の疲れや汚れをしっかり落とさないと、明日元気に活動できませんからね」
「うーん・・・じゃあちゃちゃっと入ってくるよ・・・」
ケントさんは寝ぼけ眼をこすりながら湯舟へ向かいました。しかし―――
「ケントさん! 服を脱ぎながら行くのはやめてください!」
「んー・・・ごめんー・・・」
ケントさんは服を脱ぎ散らかし、裸になりながら湯舟へ向かっていました。どうやら本当におねむのようですね・・・。私も一応女性なのですけれど・・・。薄々気づいてはいましたけど、もしかして私ってケントさんに女性と思われてないのではないでしょうか。
仕方ないので、脱ぎ散らかした服を拾い集めて、ケントさんのポーチに詰めておきます。異次元ボックスというのは便利な魔道具ですね。これだけ様々な物が入っていてもお互いに汚れが干渉したりしないですから。ついでにケントさんの予備の服も出しておきますか。と思ったら、両方汚れているじゃないですか。予備の服は二着しかなかったのでしょうか。私が一着借りたままなので三着でしたか。どうしましょうか、そういえば湯舟のあたりに脱衣所がありましたね。そこに何かないでしょうか。
私が脱衣所を見に行くと、そこには風の魔道石がはめ込まれた魔銃がありました。魔銃には説明書きがあり、「ウィンドの魔法が込められております。髪を乾かすのにお使いください。魔道石を用いていますので、引き金を一度引くだけで永続的に魔法が持続します」と書かれていました。私が試しに引き金を引いてみると、銃口から強めの風が吹き出しました。もう一度引き金を引くと、風が止まるようです。これを使えば服を乾かすことができそうですね。湯浴みの時に服を洗って乾かしてしまいましょう。
ケントさんがタオルを巻いて出てきたのと入れ違いに、私も湯舟に向かいました。ケントさんの姿はできるだけ見ないようにしながら。
湯舟の前にはカーテンがあり、外から見えないようにすることが可能になっているようです。私は湯浴みをしたあと、一緒に服も洗って、適当な場所に吊るしてそれに風が当たるようにして魔銃を置いておきました。これで明日にはすべて着られるようになっているでしょう。
問題があるとすれば、寝ている間に着ておくものが無いといったところでしょうか。
私が何か無いかと脱衣所のあたりを見回すと、バスローブを見つけることができました。ケントさんはなぜタオルだけで出てきたのでしょうか・・・。寝ぼけてたからかしら。
私がバスローブを身に纏ってベッドまで戻ってくると、ベッドにあった薄い掛け布団を被ってケントさんはすでに眠っていました。
わかってました・・・わかってましたけど、ここまで予想通りだと少しだけ腹が立つわね・・・。
私だって、少しくらい体を触られたりしても仕方が無いかなって思ってたんですけどね。旅の護衛を頼んだのに。今手持ちが何もないのが心苦しかったので、少しくらいならいいかなとか、ケントさんは優しいからまあいいかなとか、思ってたんですけどね!
腹いせにケントさんの頬を少しつねっておきました。少し溜飲も下がった気がします。
「はぁ・・・」
『どうした。そんなため息なんてついて。疲れたのか?』
私は突然頭に響いた声にびくっとしてしまいました。
「そういえばホープさんがいたんでしたね」
『忘れられてたとはひどいな』
「すみません。ちょっと色々考えてしまってて」
『ははは。もしかして男と女、一つ屋根の下で何事もないわけもなく・・・とか思ってたのか? ケントがそんなことするタマなわけ無いだろー』
ホープさんがケラケラと笑いながら言います。まさか図星だとは死んでも言えませんね。
「そうですね。ケントさんですからね。その心配もないと思ってこの提案をしましたし、予想通りですよ」
『さすがマリアだな。一端の大人は場数が違うな。でも今日は疲れただろう? 早く寝とけよ』
「はい。そのつもりです」
でも、今日の事でひとつ気になることがありました。
「大地の森には、あんな逸話があったんですね」
『荒れ地が森に変わったってやつか?』
「そうです。そんな逸話、聞いたことがありませんでしたから」
『ここら辺でしか語り継がれてない話だったんだろうよ。でも、その話は俺も気になるんだよな』
「ホープさんもですか?」
『ああ。俺の仲間に大地の精霊を宿した剣があってな。もしかしたらと思ってな』
「そういえばお二人の旅の目的は魔剣を集めることでしたっけ」
『ああ。前に話したよな』
「前というか昨日ですね。その中の一つがあの森に?」
『可能性の話さ。明日ケントにも話してみよう。今日はもう寝な』
「はい。そうさせてもらいます」
そうして、私は目を閉じ、眠りにつきました。
明日は絶対にケントさんより早く起きて服を着ると、固い固い誓いを立てながら。




