食事処『黒猫の隠れ里』
後ろで俺を見ながらクスクス笑っていたマリアに支えられながら座り込んで、少し休憩する。
「大丈夫ですか?」
「なんとか・・・」
頭を強く揺さぶられてふらふらしていた俺も、だんだんと調子を取り戻してきた。
『そういえば、マリアは一体誰に薬草の情報を聞いたんだ?』
マリアは「えーっと・・・」といいながら辺りを見回し、一点で視線を止めた。そこにいたのは、いかにもイカツイ顔の、モヒカン頭の男だった。さっきの窓口での会話を聞いていたんだろう。バツが悪そうな顔で目をそらした。それをみたマリアはにこりと笑った。
「今はいらっしゃらないみたいですね」
『つくづく強かな女だな・・・』
マリアは悪戯っぽくうふふと笑った。俺には何のことだかわからなかったが、マリアが楽しそうで何よりだ。そうやって休憩していると、昼間に約束していた男が姿を現した。男は、俺たちを見つけると嬉しそうに駆け寄ってきた。
「お、いたいたー」
男は上機嫌で話しかけてきた。
「初依頼はしっかりこなせたか?」
「はい。少し危ない場面もあったのですが、ケントさんのおかげでなんとかなりました」
「そりゃよかった。ここら近辺は比較的安全だが、盗賊だったり動物だったり、危険が無いというわけじゃないからな。しっかり嬢ちゃんを守ってやったんだな。なかなか隅に置けない男じゃねえか」
男はうりうりと肘で小突いてくる。昔父さんにやられたみたいな感じで、少し懐かしい気分になった。
「そういえば、自己紹介してなかったよね。俺はケント。よろしく」
「おお、俺の方が年食ってるのに、悪いな。俺はカイル。この町を拠点に冒険者をやっている。ランクは万年Dだけどな」
たははと頭をかきながら笑って見せる。こんな気さくな人が女の子にモテないのが不思議だ。
「私はマリアと申します。王都に向かう途中で、ケントさんには道すがら護衛をしてもらっています」
「マリアちゃん・・・いや、マリアさんと呼ばせてもらおう」
「いえいえ、そんなたいそうな者ではありませんので、マリアで大丈夫ですよ」
「そうか? でもやっぱ嬢ちゃんはただの村娘には見えねえしな。服も昼とは違ってどっかの貴族の娘さんみたいだしよ。だからやっぱマリアさんって呼ばせてもらうよ」
マリアはしぶしぶといった様子で納得していた。
「じゃあ、早速行くか!」
俺たちはカイルに連れられて、カイルおすすめの店まで来ていた。店名は「黒猫の隠れ里」内装は平凡な木造りで、カウンターには椅子が並べられ、その他に机が10個ほどあった。机の方は4人掛けのようだ。
「いらっしゃいませー」
店に入ると、店員が出迎えてくれた。その店員はなんとも奇妙な服を着ていて、普通の服の上にエプロンを付けているのは特に気にならないのだが、頭にネコミミが付いていて、エプロンの紐の先の方は丸く太くなっていて、猫の尻尾のようになっていた。
「今日は3人でたのむよ」
「カイルさん! 久々に女の子連れ? あれ? でも男の子もいるんだね」
「今回はお礼なんだ。いつも通りに頼むぜ?」
「おっけー! 3名様ごあんなーい! にゃん♪」
にゃん・・・?なんだか妙な語尾が気になったけど、気にしないことにした。
俺たちが案内された席に着くと、カイルがおすすめを注文してくれた。俺もマリアもこの店は初めてだし、カイルに任せた方が良いだろうという判断だった。席はテーブル席で、俺とマリアが隣に座り、向かいにはカイルが座っていた。
「飲み物はどうする?」
カイルがメニューを見せながら俺たちに聞いてくる。メニューには紅茶や緑茶の平凡な物から、フルーツジュース、アルコールまで幅広く揃っていた。
「私は紅茶をおねがいします」
「俺はミルクで」
「ミルク?遠慮せずにジュースやアルコール頼んでくれていいんだぞ?」
「いや、俺、昔から鍛錬してたんだけど、鍛錬後にいつも牛乳を飲んでたんだ。今もそれが癖でついつい牛乳を飲んじゃうんだよね。喉が渇いただけだったらつめたい水とか飲むけど、体動かした後だしね」
「まあ無理強いはしないさ」
ミルクはメニューの中でも最安値の物の中に入っていた。それで気を遣っていると思われたのだろう。誰かと食事に来るときは他の物を頼むようにした方が良いかな?
「じゃあそれで」と、カイルが店員に注文を告げる。
「かしこまりました! 少々お待ちください! にゃん♪」
店員は元気な声で言って下がっていった。そろそろつっこんでもいいか?語尾のこと。
「えっと・・・ここの店はこういうスタイルなの?」
「ん? 語尾の事か?」
俺が頷くと、カイルは快く答えてくれた。
「そうだぜ。ここの店の名前は『黒猫の隠れ里』だろ? だから、ウェイターやってる店員はみんなネコミミ付けてエプロンにも尻尾が付いてるんだよ。ちなみに、名前もネコに因んだものになってるんだ。もちろんニックネームだけどな。さっきの子はクロって言うんだ。黒髪の美人さんだっただろ?」
「なかなか面白いお店ですね」
「マリアさんにそう言ってもらえると紹介した俺も鼻が高いぜ。他にもミケやタマなんて名前のウェイターもいてな、みんなカワイ子ちゃんばっかなんだよなー。因みに料理作ってくれてる店長はボスって呼ばれてるぜ」
ボスネコってことか・・・。
そんな話をしていると、料理が運ばれてきた。運ばれてきたのは魚の丸焼き、魚の切り身をほぐしたものと煮た野菜を和えたようなもの、それから白米も出てきた。
「お、きたきた! ここは魚料理と米がセットになってるメニューが多くてな。それの中でも俺のおすすめを頼んでおいたぜ。冷めないうちに食べようぜ!」
「糧となってくれたすべての者たちに感謝を」
マリアは目を閉じ両手を組んで祈るように呟いてから料理に手を付けた。
俺もがっつくように料理に手を付ける。焼き魚は箸を差し込むと油がこれでもかと溢れてきて、食欲を最大限にまで高めてくれた。口に運ぶとこれまた絶品だった。塩加減が絶妙なのか、これが本当にただの焼き魚なのかと思えるほどで、魚の旨味が舌の上で踊るように広がった。それと一緒に米をかき込むとこれが絶品なのである。煮野菜の和え物は魚の旨味を優しく落ち着かせてくれ、再び焼き魚を口にした時の感動を再び味わわせてくれる。焼き魚を最大限に美味く味わわせてくれるセットメニューだった。
「美味かったー!」
「カイルさん、ありがとうございました。こんなに美味しい焼き魚は今まで食べたことが無いかもしれません」
「そうかそうか! そう言ってもらえると、俺も連れてきた甲斐があるってもんだぜ!」
ガハハと笑ってカイルは上機嫌だ。上機嫌なのは俺もマリアも同じだけどな。飯代も予定通りカイルが出してくれたし、万々歳だ。
「また機会があれば一緒に飯食おうぜ」
「はい。今日はありがとうございました」
「またね!」
カイルは「おうよ」と言い、自分の宿の方へ帰っていった。




