初依頼
マリアの服、もとい防具も買えたし、俺たちはこの町に来る前に通ってきた森に来ていた。
「ここら辺に群生しているそうですよ」
「へー。まさかこの森に生えてるとはなあ。ところで、いつの間にそんな話聞いてたの?」
「ケントさんが冒険者登録している間に聞いておきましたよ。皆さん優しい方ばかりでしたので、快く教えてくださいました」
マリアはにこりと微笑んで言う。結構イカツイ奴らも多かったと思うけど、顔に似合わず優しいんだな・・・。
「さて、探しますか」
俺たちが森を歩きながら探していると、薬草がこれでもかと見つかる見つかる。薬草はポーションの材料になるので、ありすぎても困るということは無いが、常設依頼なのにこんなに簡単に集まるというのはおかしい気がする。でも、そんなことは今はどうでもいいだろう。薬草を集められるだけ集めてさっさと帰ろう。
そんなことを考えながら薬草を集めていると、近づいてくる気配を感じた。
気配察知はホープにかなり鍛えられた。まず、周り全体の気配を掴む。それを基準として、違和感を探す感じだ。わかるようになるまで一か月ほどかかったから、記憶に強く刻まれている。
数は5か6か、俺たちを取り囲むように近づいてくる。おそらくは狼の類だろう。ホープの存在に感づいて動物はあまり襲ってこないはずだけど、どういうことだ?
「マリア、ちょっとこっちに来てくれ」
「はい。どうしたんですか?」
俺が小声でマリアを呼ぶと、マリアも察したのか、ひっそりと近づいてきた。
「今俺たちは敵に取り囲まれてる」
「それは本当ですか?」
「おそらく数は6。ここ一体を燃やしてもいいなら特に問題は無いんだけど、そうもいかないよな」
「では、ここは私に任せてもらえませんか?」
マリアが立ち上がり、詠唱を始める。
「天におわす我らが神よ。我らに一時の苦難を乗り越える力を与えたまえ―――」
マリアの姿を確認したであろう周りの気配は、一気にマリアに襲い掛かる。
「マリア!」
「―――聖十字!」
俺がマリアに叫んだとほぼ同時に、マリアが天に手を掲げながら叫ぶ。その手にはロザリオが巻き付けられていた。
マリアが叫ぶと、マリアの手から、ドーム状に光が降り注ぐ。その光は俺たちを包み、外敵の侵入を拒んでいた。周りの気配の姿が見え、それが狼型の魔物であることがわかる。
『ゴアウルフか!』
「ホープ!」
俺はホープを鞘から引き抜くと、ゴアウルフを次々に両断していった。一匹目に刃が食い込むと、次に狙いを定め、瞬時に次の獲物へと剣を振るいに行く。それに刃が食い込めば次の獲物へ。それを繰り返し、数秒で六匹のゴアウルフを一刀両断した。ホープが俺に教えてくれた剣技の一つ、連閃だ。本当は五つまでが限界なのだが、少し無理をして六体切り裂いた。最後の一匹に向かうスピードは多少落ちていたかもしれない。
俺はふーっと息を吐いて、ホープを鞘に戻す。
「いやー、ゴアウルフが柔らかくて助かったよ」
「相変わらずすごいですね。ゴアウルフといえば、群れれば危険度Cランクにもなる魔物ですよ。一体一体は弱いですが、数体集まれば王宮騎士も苦戦するという話ですから」
「そんなに手強い相手だったんだ……。でも、今回こんなに楽に勝てたのはマリアのおかげだね。俺は最初は奇襲かそのままやり過ごす気でいたからね。最終手段はあたりを燃やしながら戦うってことだったけど」
「そうならなくてよかったです。もしかしたら放火犯としてお縄に入っていたかもしれませんからね」
「ははは……本当にそうならなくてよかったね」
もしものことを考えると乾いた笑いしかでてこなかった。
「魔物の肉も食べられるんだっけ?」
「食べられますが、毛皮と肉を分けて剥ぐことで、毛皮も防具などに使えたりしますよ」
「じゃあ面倒だけどがんばって剥ぐか」
「私はその間、近くで薬草を探してきますね」
「よろしくー」
俺はできる限り慎重に皮を剥いでいった。だけど、初めてなこともあり、上手く剝げたのは最後の二匹だけだった。俺は上手く剥げた二枚の毛皮と肉をポーチに収納し、マリアの方に向かった。マリアは両手に抱えられるだけの量の薬草を摘み取っていた。これで次の分の宿代は確保できるだろう。確か十本で20バンだったかな。ざっと見ただけでも百本くらいはあるだろう。
「それだけあったら十分でしょ。そろそろ帰ろう」
「はい。そうしましょう」
俺たちが森を出ると、陽が沈みかけていた。さすがに昼に町を出たから帰るのは夕方になるのは当たり前か。
「マリア、急ごう!」
マリアをお姫様抱っこして、俺はダッシュで町まで駆けて行った。
「なんだか、量が多くないですか?」
「明日の宿代を稼ぎたかったからね。ちょっと多めに採ってきちゃったんだ。まずかった?」
「いえ・・・ただ、町の近郊にはここまでの量は生えていないと思うのですが・・・」
ギルドに着くなり、依頼報告用の窓口へ行って、薬草を見せた。すると受付のお姉さんが意外な反応を示した。
「もしかして、大地の森へ行ったんですか?」
「大地の森?」
「町の東に位置する巨大な森です。その昔、干からびた大地が突如として森に変わったという逸話がある森です」
どうやら俺たちが行った森のようだ。
「確かに行ったけど・・・」
「やっぱり行ったんですね!!」
お姉さんはカウンターにバンと手を突いて興奮気味に叫んだ。
「あそこは最近魔物が頻繁に目撃されるようになっていて危険なんですよ! 確かに、人があまり入らなくなったので野草はたくさん生えてるでしょうけど・・・とにかく! 無事でよかったです。本当に」
窓口を飛び越え、腕を伸ばして俺の肩を強く揺さぶりながら言うお姉さんからは、本当に心配していることが良くわかる熱を感じた。ちなみに、Eランク昇格の件をセレンにお願いしに行ったときも、同じような反応をされた。俺の頭は脳震盪を起こしてしまうかと思うほどシェイクされた。




