翌朝
翌朝、起きるとマリアがいなかった。
「ホープ。マリアは?」
『川の方にいったぞ。顔でも洗いに行ったんじゃねえの?』
ホープはかったるそうに答えた。なんでそんな不機嫌なんだ。
「そっか。ありがとう」
俺が川の方に行くと、そこにはマリアがいた。
「おはようマリア」
俺が声をかけると、マリアは驚いたように振り向いた。
「おはようございます。ケントさん」
その顔には、目の縁から頬にかけて、涙の跡があった。
しかし、マリアは努めて平然を装っているのが、俺にもわかった。
「……泣いてたの?」
おそるおそる聞いてみる。
「すみません……情けないところを見せてしまいましたね」
「よかったら、どうして泣いてたのか聞かせてくれない? 嫌なら別にいいからさ」
俺は努めて軽く言った。あまり暗い話は向いてないんだよ。
「そう……ですね……。ケントさんにはお話しておいたほうがいいかもしれません」
彼女は一度、顔を川の水で洗い、俺の方に向き直った。
「コモドリザードに襲われたとき、私と一緒にこちらまで来ていた方がいたんですが、その方はコモドリザードに殺されてしまいまして……。その方というのが、私が小さかった頃から良くしてくれた方だったのです」
マリアは真剣な眼差しで俺を見つめて言った。
俺は何も言えなかった。重い話はこういう雰囲気になるから苦手なんだよ。
「あーもー! めんどくせー!!」
俺は深呼吸してから続けた。
「死んじまったもんは仕方ないだろ。それよりも、今は生きてるマリアがこれからも生きていくことが大事だろ。いつまでも過去を引きずるよりは、前向いて歩いてた方がすっきりしてていいよ!」
我ながら無神経なことを言っていると思う。ここで再び泣かれて、幻滅されたとしても仕方ないだろうことはデリカシーのデの字も知らない俺にだってわかっていた。
しかし、現実は違った。マリアは目を丸くしながら俺を見つめていたかと思うと、急に吹き出してクスクスと笑った。
「俺、なんかおかしいこと言ってたかな?」
「いえ、違うんですよ。ケントさん。ありがとうございます。あなたに言われて気付きました。これも神のお導き。私はまだこの世でやらなければならないことが残っているということなのでしょう。そのことに気付かず、私は自分や周りを少し恨んでいました。この間違いに気づけたのはケントさん。あなたの言葉のおかげです。ありがとうございます」
マリアは深々と頭を下げる。
俺もここまで想定外なことを言われると照れくさくなってしまって、頭をぽりぽり掻くくらいしかできなくなってしまった。
「は、早く朝飯食って出発しようぜ」
「はい!」
元気よく返事をしたマリアと共に、俺はホープの場所へ戻っていった。
『元気になったみたいだな。ケントを行かせたのは間違いだったんじゃないかと不安だったが、杞憂だったか』
「はい。ケントさんのおかげで、また前を向いて生きていけそうです」
『そりゃあよかった』
ホープはあえて何があったのか聞かなかった。説明するのも照れくさいので聞かないでいてくれて助かった。
「ん? マリア、ホープと喋れるようになってる?」
「あ、はい。昨日磨いて差し上げようと思ったときに」
「なるほど……。大丈夫だった?」
「何がでしょうか?」
マリアは何のことだかさっぱりわからないようだ。
「なんかこう……心臓の奥がドクンってならなかった?」
「確かにそのような感じにはなりましたけど、特に体に問題はないですね」
俺はほっと胸をなでおろした。せっかく助けたのにしんどい思いさせるのは故意ではなくても避けておきたいよね。
『マリアは精霊力が元々強かったみたいだな。精霊力はその者の魂に依存する。もしかしたら生まれ変わる前にも魔剣を使っていたのかもな』
「さて、俺達はスミスの町に向かうけど、マリアはどうする? とりあえず一緒にスミスの町まで来る?」
気を取り直して今日の予定を決める。
「はい。そうさせてもらいます。この先も危険がないわけではないと思うので、一緒にいれば安心ですし」
「よーし、じゃあスミスの町に一緒に行こう! で、スミスの町まであと何日くらい歩けばいいんだ?」
「ここからですとまる二日くらいでしょうか」
「え、そんなにかかる?」
『お前は一日目にかっ飛ばして来たからな。普通の人間が歩く数倍の速度だ。あの調子でずっと進んでいたら既に町に着いていたんじゃないか?』
「なーるほど」
ぽんと手を叩いて納得した。
「つまり、俺がかっとばせば今日中には着くってことだよな」
『たぶんな』
「よし。じゃあ、俺がマリアを抱えて走るよ」
そういうと、マリアは両手をぶんぶん振って断った。
「そんな! 悪いですよ。私年の割には軽いですけど……。それでもケントさんと体格変わらないですからね!」
「大丈夫大丈夫」
俺はマリアの肩を抱いて、膝の部分を持って抱えた。所謂お姫様抱っこってやつだ。これ結構腕に負担がかかるな。おんぶにしとけばよかったか?
俺がマリアを抱きかかえると驚いた様子のあとに彼女がおずおずと聞いてきた。
「重くないですか?」
「うーん、まあまあかな。でも、大丈夫なくらいだよ」
『お前ほんとデリカシーねーよな』
なんのことだかわからないけど、とりあえず行けそうなので、このまま行くことにした。
「大丈夫だと思うけど、一応捕まっててね」
「は、はい!」
マリアはひしっと俺の首に捕まった。




